【水泳(視覚障害)】秋山里奈「8年越し金メダル」の舞台裏

  • 星野恭子●取材・文 text by Hoshino Kyoko
  • 越智貴雄●写真 photo by Ochi Takao

金メダルを獲得し笑顔をみせた秋山里奈選手金メダルを獲得し笑顔をみせた秋山里奈選手「金メダルは重いです。いろいろなものが乗っているから」

 そういって胸元に輝くメダルを右手で優しくなでたのは秋山里奈。ロンドン・パラリンピックの競泳100m背泳ぎで接戦を制し、ようやく手にした金メダルだった。

 世界記録は何度もつくってきたが、「パラリンピックで勝たないと世界一だと思えなかった。これでやっと、真の世界一になれたって気がする」と喜びを爆発させた。

 ここまでの道のりは長く険しかった。17歳で出場したアテネ大会で銀メダルを獲ると、周囲も自分も、「北京では金」を期待した。だが、北京大会では出場選手が規定数に達せず、背泳ぎが実施種目から廃止され、泳げなかった。ショックは大きかったが、ただ「金メダルを獲るまではやめられない」という思いだけで水泳を続けた。

 ロンドン大会直前の7月、国内大会で世界記録(1分18秒59)を更新したが、そこで満足することなく、「パラリンピックならもっと記録が出せるはず」と、さらに前向きに練習に取り組んだ。体調もよく自信を持って乗り込んだロンドンでは、またも予想外の事態が起こる。

 初日の100m自由形ではフライングで失格し、続く50m自由形は予選落ち。リズムにのれないまま、100m背泳ぎの予選を迎えた。思い通りの泳ぎができず、タイムは自己ベストから3秒以上遅れる1分22秒47。全体3位で決勝には進んだが、表情は暗かった。

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