【陸上】渡辺康幸が間近で見た東京世界陸上 実は「満身創痍の状態だった」三浦龍司と欧米勢の躍進 (2ページ目)
【三浦龍司の人間性、懐の深さが、彼の強さの表れ】
――難しいとはいえ、ワールドランキングではなく、参加標準記録を狙っていくことが大事になる。
「3000m障害の三浦龍司選手(SUBARU)が(8位)入賞したのも、結局、そこなんですよね。ダイヤモンドリーグで勝負しにいけるだけの記録と力がある。
男子の長距離種目は多くの場合、世界の舞台に立つのが精一杯という現状が続いています。もちろん、コーチも選手も抵抗はしているんですけど、レース後半のペースアップの対応が、なかなかうまくいっていないのが課題ですよね」
――そのなかで、入賞した三浦選手は、決勝のレースで国立競技場の満員のスタンドを大いに沸かせました。
「世界大会で連勝中のエルバッカリ(モロッコ)に勝てるチャンスがあったし、金メダルもあるんじゃないかっていうレースをしてくれましたからね。
今回、三浦選手は足の状態がよくなくて、満身創痍の状態で大会に臨んでいました。それでも、ああやってメダル争いができるんですから、ポテンシャルが高い。トラックでこんな選手は今まで出てきたことがないですよ。近くで見ていて、勉強になることが多かったです。
決勝では、最後は間違いなく、後ろの選手に引っ張られていました。日本陸連として抗議しましたが、普通の選手だったら言い訳すると思いますよ。だけど、ダイヤモンドリーグなどに出ているので、ああいうことがあるのも当たり前だと三浦選手は受け入れていました。そんな三浦選手の人間性、懐の深さが、彼の強さなのかなと思いました。今回メダルは獲れなかったですけど、2年後の北京世界陸上、そしてロス五輪では、やってくれると思います」
――今回の世界陸上の男子長距離種目では、アフリカ勢よりも、ヨーロッパ勢やアメリカ勢の活躍が目立っていました。ルーツがアフリカにある移民系のヨーロッパの選手もいるとはいえ、潮流が変わりつつあるのでしょうか。
「トラックでいえば、アメリカ、イギリス、フランス、オーストラリアやニュージーランドといった国からは、毎年のように好選手が出てきています。今回はアフリカ勢の不調によって、白人の選手が多くメダルを獲得しました。彼らが頑張ったことによって、日本人もやれるんじゃないかっていう希望は見えましたよね。
今回は、5000mも10000mも、3000m障害も、優勝候補筆頭ではない選手が勝っています。もちろん力のある選手たちですが、そういう意味では、夢があります。
アメリカのチームのやり方を参考にしている日本のチームも多いですし、動画サイトには彼らのトレーニングが上がっています。欧米系の選手のコーチは緻密です。我々も、もっと努力していかなければいけないなと感じました」
⚫︎Profile
渡辺康幸(わたなべ・やすゆき)/1973年6月8日生まれ、千葉県出身。市立船橋高-早稲田大-エスビー食品。大学時代は箱根駅伝をはじめ学生三大駅伝、トラックのトップレベルのランナーとして活躍。大学4年時の1995年イェーテボリ世界選手権1万m出場、実業団1年目の96年にはアトランタ五輪10000m代表に選ばれた。現役引退後、2004年に早大駅伝監督に就任すると、2010年度には史上3校目となる大学駅伝三冠を達成。15年4月からは住友電工陸上競技部監督を務める。学生駅伝のテレビ解説、箱根駅伝の中継車解説では、幅広い人脈を生かした情報力、わかりやすく的確な表現力に定評がある。
著者プロフィール
和田悟志 (わだ・さとし)
1980年生まれ、福島県出身。大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。その後、出版社勤務を経てフリーランスに。陸上競技やDoスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆をしている。
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