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青山学院大、國学院大...増える箱根駅伝ランナーのマラソン挑戦、好タイム連発も早期挑戦にはリスクも

  • 佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun

大阪マラソンで、先輩の若林宏樹の学生記録を2秒更新した黒田朝日(青山学院大) photo by Jiji Press大阪マラソンで、先輩の若林宏樹の学生記録を2秒更新した黒田朝日(青山学院大) photo by Jiji Press

【学生歴代10傑のうち、2022年以降に出たものが8つ】

 箱根駅伝に出場する学生のマラソン挑戦。今に始まったことではないが、ここ数年は積極的に挑戦する選手が増え、しかも、結果も出ている。

 昨年は、大阪マラソンで平林清澄(國學院大)が2時間0618秒で優勝し、学生日本記録および初マラソン日本記録を更新。今年2月2日の別府大分毎日マラソンでは、若林宏樹(青山学院大)が平林の記録を上回る2時間0607秒で2位(日本人1位)に。その3週間後の2月24日の大阪マラソンでは黒田朝日(青山学院大)が、先輩の若林の学生記録をさらに塗り替える2時間06分5秒(6位)をたたき出した。

 マラソン学生歴代記録10傑を見ると、実に8つが2022年以降(2022年1人、2023年2人、2024年1人、2025年4人)に出たものである。

 好タイムはもちろん、実業団の選手や外国人選手にも力負けせずに戦えているのは驚きでしかないが、この学生のマラソン挑戦というトレンドについて、日本記録(2時間4分56秒)保持者の鈴木健吾(富士通)を学生時代に指導するなど、神奈川大学駅伝部の指揮を35年執った大後栄治前監督(昨年1月に退任)に話を聞いた。

「前提として、マラソンはすべての学生が挑戦できるものではありません」

 大後氏は、そう語る。

「高校を卒業して大学に入ると、スタミナとスピードの両方を鍛えていくことになりますが、(箱根駅伝を想定した)ハーフマラソンに対するスタミナ強化の練習をしていくなかで、ほかの選手が90100%の努力度が必要なところを、7080%程度で消化してしまう選手が出てきます。彼らは主要練習課題に対して余裕度がありますので、その前後の練習量も多く確保できます。それが(マラソン向きの)持久係数の高い選手です」

 持久係数とはいったい何なのだろうか。

10000mの記録に対するハーフマラソンやマラソンの記録の相関を統計的に見たものです。10000mの自己ベストがこのくらいなら、20kmの記録はこれくらい、マラソンの記録はこれくらいと予測でき、だいたいの選手がその統計に当てはまります。ただ、なかには、それに当てはまらない選手もいる。例えば、鈴木健吾がそうでした」

 鈴木は何が違ったのだろうか。

「健吾の頃は、まだ薄底(のシューズ)でしたが、大学3年(2016年)の7月に10000mで283016の神奈川大学記録を出しました。今はそのくらいのタイムを持つ選手は学生でもごろごろいますけどね。その夏は月間で1300kmくらい走り、非常にスタミナがあって、マラソンの適性があるなと思いました。

 そして、翌年3月の日本学生ハーフマラソンで優勝。その時の20kmの通過タイムを見ると、私の考えていた持久係数を大きく超えていました。つまり、後半の落ち込みが低い、または逆にペースアップの傾向がある。こういう走りのできる選手を、私はマラソンに向いていると判断しています」

 マラソンを走るには、この持久係数が高いことが一つの条件になる。そして、指導者のマインドも、そうした選手には「どこかで成果を出させてあげたい」となるという。

「平林君も2年生の頃には(平均的な)持久係数を超えた練習を消化し、本人の意思もあって、3年時に大阪マラソンに出たのでしょう。健吾も3年になってレースや練習で持久係数を超えてきて、本人もマラソンを意識し始めたので、私からも『挑戦してみるか』と働きかけ、4年時に初マラソンを走りました(2018年の東京マラソンで当時学生歴代7位の2時間1021秒)」

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著者プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。近著に「箱根5区」(徳間書店)。

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