箱根駅伝初制覇へ――國學院大・平林清澄が抱くエースとして、キャプテンとしての矜持 (2ページ目)
【目標達成のための『準備』の追求】
言葉には自信がにじむ。課題のラストスパートを磨くだけではなく、レース中盤の走力アップに力を注いできた。余裕を持って終盤につなげるための練習は、3年目から意識して取り組んでいる。2月の大阪マラソンでも、その成果が出た。日本学生記録、初マラソン日本記録を塗り替える2時間06分18秒で優勝。学生の域を超え、日本陸上界に大きなインパクトを与えた。
「自分のなかで手応えをつかんだ部分があるので、駅伝にも生きてくるのかなと」
ただ、慢心は一切ない。7月には10000mのトラックレースに出場し、27分58秒19と好走したものの、同じ学生である創価大のスティーブン・ムチーニ(2年)、中央大の溜池一太(3年)らに先着を許して5位。勝負に勝ちきれなかったこと、そして自らの調整に厳しい目を向ける。
「あのレースは悔しさしか残っていません。最低限の27分台を出したくらいの感じです。正直、準備がうまくいかなかったので。たとえ、あそこで自己ベスト(27分55秒15)を更新しても納得しなかったと思います。レース後に『もっといけた』と話していたでしょうね」
平林が突き詰めているのは『準備』。最後の調整だけを指す言葉ではない。一つレースが終われば、翌日からは次の準備が始まる。毎日の練習はもちろんのこと、食事、睡眠などの生活面。ケガ予防、体調管理、メンタルの作り方などのコンディショニグまで多岐にわたる。1年時の出雲駅伝、全日本大学駅伝は万全の状態で臨めずに前田康弘監督からも叱責されたという。
「最初はその準備がヘタクソでしたから。4年間かけて経験を積み重ね、少しずつスキをなくすことができるようになっています」
間もなく、4年目となる駅伝のシーズンが開幕する。9月24日に出雲駅伝のエントリーメンバーも発表され、ますます機運は高まってきた。過去3年の三大駅伝を振り返れば、大きく外したことは一度もない。安定して区間上位で走っているが、物足りないという。区間賞は3年時の全日本大学駅伝7区のみ。
「過去の成績を見ると、悔しいですよ。そろそろしっかり勝たないと。『平林も田澤さん、近藤さんのレベルに行ったんだな』と言われるようになりたいです。あのふたりに共通するのは、チームを絶対に勝たせるんだ、という強い思いが走りににじみ出ていたこと。本人たちがどう思っていたのかはわかりませんが、一緒に走っていた僕はそう感じました。それが本当のエースなんですよ」
三大駅伝の個人目標は、エースが集う場所で区間賞を総なめにすること。シーズン開幕が待ちきれない様子で、「楽しみです」と声を弾ませる。見据えるのは、箱根駅伝の総合初優勝。キャプテンとして、夏合宿から徹底してきたことがある。
後編に続く
【Profile】平林清澄(ひらばやし・きよと)/2002年12月4日生まれ、福井県出身。武生第五中(福井)→美方高(福井)→國學院大。大学1年時から出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝の学生三大駅伝すベてに出場中。昨シーズンは全日本7区で自身初の区間賞を獲得、箱根では2年連続でエース区間の2区を任され区間3位の走りで8人抜きを果たし、チームの5年連続シード権獲得に貢献した。マラソン初挑戦となった今年2月の大阪マラソンでは、2時間06分18秒の初マラソン日本最高記録、日本人学生記録をマークして優勝を果たした。マラソン以外の主な自己ベストは5000m13分55秒30(2021年)、10000m27分55秒15(2023年)、ハーフマラソン1時間01分23秒(2024年)。
著者プロフィール
杉園昌之 (すぎぞの・まさゆき)
1977年生まれ。サッカー専門誌の編集記者を経て、通信社の運動記者としてサッカー、陸上競技、ボクシング、野球、ラグビーなど多くの競技を取材した。現在はジャンルを問わずにフリーランスで活動。
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