【パリオリンピック男子4×100mリレー】2走にサニブラウンを抜擢 5着もメダルに0秒17差と今後への可能性を証明 (2ページ目)
【表彰台の可能性を生み出した攻めの姿勢】
その試みは、結果につながる実感を得るものだった。1走の坂井はアメリカには先行されたが、予選のサニブラウンより少し遅いだけの10秒41のラップタイムで、2番手のフランスと僅差の5番手でバタンを受け渡し。「少しスムーズさがなかった」というサニブラウンだが、アメリカのバトンの受け渡しが大きく崩れたなかで、全体1位の8秒88のラップタイムで走って1番手に上がった。
そしてこれまでオリンピック、世界選手権の3走で爆走を見せてきた桐生は、予選後に「決勝は多分3レーンになるだろうが、内側でもしっかり曲がれるという自信はあるからレーンは関係ない」と話していたように、予選よりギアを上げて9秒16のラップタイムで走ってトップを維持し、アンカーの上山へ。
「1位で持ってきてくれると信じていたから。しっかり走ってどこまで耐えられるかだと思っていた」という上山だが、桐生とのバトンパスは一度振り返る形になったことで加速しきれず、8秒7~8のラップタイムで走る他国のアンカーに抜かれ、37秒78で5位という結果になってしまった。
アメリカが失格になったなかで、優勝したカナダのタイムは37秒50、3位のイギリスは37秒61だった。
「1-2走のバトンはウォーミングアップで合わせた時はうまくいってなかったので、少し心配な部分があったが、思いきっていくしかないところでハキームが勇気を持って思いきりいってくれたので、その場で作ったバトン(パス)にしては非常によかった。それに走りも期待どおり。個人の100mではファイナルに行けなかったが、日本として個人でファイナルに残る力を持つ選手を前半で使えたことは大きかったと思います。
またアンカーの上山も9秒1台だった予選の走りをしていれば、銀メダルに近いところまでいけたと思う。勝負なのでどれだけ前の選手を信じて思いきりいけるかが重要になってくるが、彼はそこをしっかり攻めきってくれた。その結果、桐生の位置が少し遠くなって一度減速する形になってしまったが、バチッと決まっていればメダルはいけていたかもしれない。
結果は5位になってしまったが、我々の戦略どおりに思いきりいけたことで、やらなければいけないことを選手たちはしっかりやってくれたと思います」(土江)
個人の100m出場権を逃し、リレー代表では決勝を走れなかった柳田だが、この2年間で国内トップクラスのスプリンターとなった実力は折り紙つき。現在21歳、今回の悔しさをバネにしてどれだけ成長してくれるかという期待もある。
また、大黒柱であるサニブラウンが今後、他国のエースに負けない走力で2走を務めてくれることがチームにとって何よりの武器になるという、大きな収穫を得たことも大きかった。
2大会ぶりのメダル獲得を果たせなかったこと、アメリカが失敗して金メダル獲得の可能性も大きくなっただけに悔やまれる今回の男子4継の結果だったが、来年の世界選手権東京大会やその先に向けての期待は膨らんできた。
著者プロフィール
折山淑美 (おりやま・としみ)
スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。
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