マラソン神野大地がサブ10を達成。あえてトップのうしろにつかず「33キロ地点で、ニャイロに声をかけた」 (2ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 時事

【挫折し、環境を変え、トレーニングを試した】

 これまで苦闘する神野を見てきたが、正直よくここまで盛り返してきたなと思う。

 1年前の福岡国際マラソンは28キロ地点で途中棄権だった。今年2月のびわ湖毎日マラソンは鈴木健吾が2時間4分56秒の日本記録を更新するなど、多くの選手が6分台、7分台を出したが、神野は2時間17分台を叩いた。マラソンにむいていないんじゃないか。何か取り組みがおかしいのか。一度は、マラソンをやめようというところまで追い込まれた。

 すべてを見直し、もう一度、陸上に集中するために4月、活動拠点を東京から浜松に移した。7月、それまでの練習の成果を出すべくホクレン北見大会で1万mに出場した。だが、動きがバラバラで29分49秒77と自己ベストよりも1分30秒も遅く、神野の表情から明るさが消えた。

 あれから約5か月、何か新しいことに取り組んだのだろうか。

「チームで課題を出しあって改善、修正したことはありますが、このレース前だけめちゃくちゃ練習をしたとかないですし、特別なことはしていないんです。新しい取り組みとしては、ホクレンのあとぐらいからマインドフルネスというイメトレ(イメージトレーニング)を始めたことです」

 神野は、明るくそう言った。

「僕は、試合になると動きが変わってしまったり、ふだん、練習している時の自分の体じゃない感じになって、その焦りからフォームがぐしゃぐしゃになったり、リズムが悪くなったりしていたんです。そこでポイント練習の前に、自分のいい走りをイメージしたり、相手選手の走りを考えて、この位置で走ろうとか、ペースが上がった時に自分のすべきことなどをイメージしたうえで練習をしていたんです。今回もそういうイメトレを事前にしてレースに臨み、その結果、自分の走りができたのでイメトレの効果は大きいなと思いましたね」

 神野は、藤原新コーチ(スズキアスリートクラブ)のもとで相当にハードな練習をこなしてきた。藤原からは、「力もあるし、サブ10は余裕、7分台も出せる練習はこなせている。レースでふだんどおりの力を出すことが課題」と言われた。練習でやってきたことを試合で100%出すにはどうすべきか。多くのアスリートの悩みでもあるが、神野はイメトレから、その答えを導き出した。

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