東海大、箱根初制覇の一因。
阪口が生み小松が喜んだ「最高の4秒差」

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by Kishimoto Tsutomu/PICSPORT/AJPS

東海大・駅伝戦記 第43回

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 東海大の阪口竜平(りょうへい/3年)が平塚中継所(8区)に入ってきた。手を上げた小松陽平(3年)が待っている。「頼む」と襷(たすき)を渡した時、トップの東洋大とは4秒差だった。

「絶妙のタイム差」。小松はそう思ったという。この差が、この後の小松の区間新という快走を生み、東海大の箱根初優勝の夢を一気に現実のものとした。

小松陽平(写真左)は鈴木宗孝の背後につき、プレッシャーをかけ続けた小松陽平(写真左)は鈴木宗孝の背後につき、プレッシャーをかけ続けた 一体、「絶妙な4秒差」とはどのようなものだったのだろうか。

「オレが前を抜きたいから、10秒ぐらい負けて(遅れて)来てくれ」

 レース前、小松は冗談でそんなことを阪口に言っていたという。

 7区の阪口がスタートした時点でトップの東洋大との差は1分8秒。開いてはいるが、決して追いつけない差ではない。6区で山を下ってきた中島怜利(れいり/3年)は、こんな思いを抱いていた。

「東洋大の7区の小笹(椋/4年)さんは実力のあるいい選手ですが、阪口が非常に好調だったので、かなり差を詰められると思っていました」

 少なくとも東洋大の背中が見える位置までは追えると、中島は確信していた。

 その阪口だが、襷を受けるまでは東洋大を追うために、まずは突っ込んで走る覚悟でいた。だが実際は、やや抑え気味に走り始めた。両角速(もろずみ・はやし)監督から「前半は落ち着いていけ」という指示が出たからだ。

「区間新、区間賞を狙っていきたかったので、それには最初突っ込んでいいかなと思っていたのですが、両角先生に少し抑えて走るように言われました。後半に余力を残しつつ、東洋大との差をいかに縮めていくか......だけを考えて走ることにしました」

 それでも地力に勝る阪口は軽快な走りで前を追い、二宮ポイント(11.6キロ地点)では48秒差となり、17キロ過ぎでは約20秒程度の差になった。東洋大の小笹の姿が見え始め、さらにギアを上げた。前半セーブしていた力を発揮し、20キロを超えると8秒差まで迫った。

 阪口は小笹に近づくと、その差を正確に把握しようとした。小笹が道路の白線を踏んだ時のタイムを確認し、阪口がそこを通った時を見ればタイム差がわかる。そうして自らタイム差を計測していたのだ。

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