設楽悠太、大迫傑の激走で日本マラソン界は「オレ流」時代に突入か (3ページ目)

  • 佐藤 俊●文 text by Sato Shun
  • 中村博之●写真 photo by Nakamura Hiroyuki

 ふたつめは東京マラソンに向けての準備が周到になされていたことだ。設楽は今レース前に1月20日、都道府県駅伝(13km・区間賞)を走り、2月4日に丸亀ハーフ(21.0975km・2位日本人トップ)、2月11日に唐津10マイル(16km・優勝)と3本のレースを走っていた。

 立て続けに走ることで体に刺激が入り、週1本のポイント練習のような感覚になってうまく調整できた。しかも実戦ゆえに本番に向けて試合勘が磨かれる。30km地点で置かれた時、「無理せず、あえてついていこうとしなかった」と冷静に対応できたのも、レース数をこなしたことで冷静に展開が読めたからだろう。

 3つめは、気持ちの強さだ。設楽自身が「マラソンで30km以降は気持ちです」というように、今回のレースはそれを体現してくれた。もともと「日本人に負けるつもりはない。勝ちにこだわっていました」といった負けん気の強さがある。そうなるには実績(結果)の裏付けが必要になるが、先述の3本のレースはいずれも日本人トップ、もしくは優勝で、昨年の9月以降、日本人に負けていない

 42km付近では日本記録が更新できるかどうかのギリギリだった。そこで懸命に足を前に出して力を出し切り、最後に倒れながらも日本記録を破ったのは気持ちの強さがあったからに他ならない。

 設楽はレース前日、平昌五輪でスピードスケートの高木菜那がマススタートで金メダルを獲ったレースを見ていたという。

「興奮して見ていました。日本人で金メダル2つはすばらしいですし、競技は違いますけど、僕も競技で結果を残していきたいと思います」

 2年後の東京五輪に向けて、この記録は「マラソン、悲願のメダル獲得」に向けて大きな一歩になるだろう。また、日本の長距離界にとっても大きな一撃になった。

 短距離界は昨年、桐生祥秀が9秒98を出したことで、さらに活気づいた。長らく低調だった長距離界は昨年、福岡国際マラソンで大迫が2時間7分台を出して日本記録更新への機運が高まり、今回、設楽が日本記録を塗り替えた。それに引っ張られるように井上も2時間6分54秒を出して、2時間8分台には日本人選手が4名並んだ。これからさらにタイムが伸びそうな雰囲気が漂う。この日の設楽の「2時間06分11秒」は、長距離界に大きなうねりを起こしたのである。

◆厚底シューズで連勝。設楽悠太は「みなさんのために東京で日本記録を」>>

◆ポルシェとプリウス。高橋尚子が神野大地に教えたマラソンの極意とは>>

■陸上 記事一覧>>

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る