東大生ランナー・近藤秀一が語る「僕が箱根駅伝を走る前に思うこと」 (4ページ目)

  • 高橋博之●文 text by Takahashi Hiroyuki
  • photo by Matsuo/AFLO

 近藤は一浪して東大理科二類に進学した。浪人時代も両方を究めるという目標を見失わずに受験勉強を続けながら陸上のトレーニングも続け、5000の自己ベストも更新したという。そのためか入学後も受験勉強の影響はほぼなく着実に記録をばせた。

 しかし近藤は理系の学生。研究に費やす時間は学年を重ねるごとに長くなる。さらにひとり暮らしなので自炊、生活費を稼ぐために家庭教師のアルバイトもする。両立は難しくなる。

「限られた時間だからこそ、優先するものを間違わないようにしています。例えば、僕は自炊をしていますが、食事についてあまり深く考えていません。食事にこだわって時間を使って得る成果よりも、失うものの方が多そうですから。陸上に使える時間が少ないなかで強豪校の選手と同じことをやろうと思っても、その縮小版になるだけ。それでは追いつけない」

 環境は変えられない。今いる環境の中で最善を尽くすにはどうすればいいか。近藤はいつも考え、思い切って取捨選択をしてきた。そして近藤は箱根路の舞台にたどり着いた。

 任される区間は熱望してきた1区が濃厚だ。大手町のスタートラインに並ぶエリートランナーたち。そのなかで胸にスカイブルーのラインに「東京大学」と白く染め抜いたランナーが堂々と立つ。多くの東大OB、ファンが待ち望んだ光景だ。そのひとりである松本氏は自身の箱根駅伝の経験も思い出しながら近藤の走りに思いをめぐらす。

「箱根駅伝の応援は本当にすごいです。声援で自分の足音が聞こえなくなり、飛んでいるのではと錯覚してしまうほどです。でも近藤君なら大丈夫でしょう。20 kmの実力は他校のエースクラスと遜色ありません。選ばれた者として走り、チャンスが来た時に勝負に出る。その時は恐れずに区間賞に挑戦してほしい」

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