【陸上】山崎一彦が語る「『若手の発掘』を否定する育成論」 (2ページ目)

  • 折山淑美●文 text & photo by Oriyama Toshimi

「彼らは6年後、東京五輪の主軸になっていると思うけど、なぜ海外志向にしたいかというと、2020年を想像した時、『東京が東京でなくなる』と思ったからです。東京五輪の日本代表に決まれば、街を歩いていても注目されたりして、すごいプレッシャーにさらされることになる。試合の競技場に行っても、『ここが本当に国立競技場なの?』というくらいに雰囲気が違うだろうし、地元なのに日本で好き勝手にできない状況が出てくると思います。だから、今のうちから海外に慣れて、『世界の中の日本』という意識でいたほうがビビらないと思うんです」

 山崎氏がそのように思うようになったキッカケは、2007年に大阪で行なわれた世界陸上だった。テレビへの露出が増えた選手たちは、好記録を出さなければならないという大きなプレッシャーを背負った結果、普段の力をほとんど発揮できなかった。抜本的に環境を変えなければいけないと思ったが、構造的な部分を大きく変えることは難しい。それならば、まずは選手たちの意識を変えることが早いという考えに至った。

「日本陸連として、定期的に合宿を行なって若手をトレーニングするのもいいことでしょう。ただ、それは本来、パーソナルコーチとともに自分の所属先でやるべきことだと思っています。我々は、それとは違う刺激を与え、選手やコーチに高い意識づけを行なうことが、本来の仕事ではないかと。資金に困っているなら、支援したり、一緒に作る方法を考えるとか。やはり若いうちは、彼らの視野を広げることにお金を使ったほうがいいと思っています」

 まだ視野の定まっていない高校生の時期なら、インターハイや国体も重要な大会といえる。だが、大学生になればインカレを重視しつつも、それは世界の陸上大会のひとつという意識で取り組んでほしいと、山崎氏は語る。

「箱根駅伝を例に挙げるならば、大会が終わればゴールではなく、世界を目指しながら、そのためのトレーニングの一環として箱根に出るという考えであればいいと思うんです。早稲田大の監督だった中村清さんはそういうことを言っていたし、実業団のエスビーや旭化成もそういうスタンスで駅伝を捉(とら)えていました。目的と手段が逆になってはいけないということは、世界を経験した僕たちが言わなければいけないと思っています」

 6年後の東京五輪では、20代後半になった今の若手が主力になっていることだろう。そのためにも、今のうちに様々な経験を積んでもらうのは必要だが、同時に競技者として、ピークを伸ばすために慎重にならなければいけないともいう。

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