【陸上】17歳・土井杏南「陸上を第一に考えた生活をしている」 (3ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • スエイシナオヨシ●撮影 photo by Sueishi Naoyoshi

 当時、なかなか納得する走りができずにいた高校の先輩・高橋萌木子は、土井の飛躍を間近で見ながら、こんなことを語っていた。
「彼女を見ていると、毎回、本当に楽しそうに走っている。私も、昔のそういう気持ちを取り戻さなければいけないな、と思いますね」

 周囲がうらやむほど、まさにハツラツとした走りを見せていた土井は、ついに五輪切符を獲得。女子4×100mリレー日本女子代表の第一走を任された五輪本番でも、堂々たる走りを見せた。結果は予選敗退に終わったものの、8万人の観客に埋めつくされたスタジアムでも、土井は楽しく走れたという。

「体調はうまくピークに合わせられて、自分なりに手応えを感じることができました。もちろん、緊張感はありましたけど、変に硬くなることはなく、満員のスタジアムの中でも舞い上がることはありませんでした。生まれつきかどうかはわかりませんけど、今まで陸上に関しては、緊張したことがないんですよ。だからロンドンでも、『どれだけ走れるのかな』とワクワクしている気持ちのほうが強かったです」

 100mや200mのレースを観客席から見ているときも、“世界”との実力差を痛感しながら、その舞台に自分が立つ日に思いを馳せた。

「(世界のトップクラスは)本当に速いな、と思いました。自分とは全然違うな、と。速い選手は、足が前に、前に、と出ていくんですよ。体が勝手に前に行っているように見えるんです。自分もあのレベルまでいかないと、世界では戦えないな、と思いました。でも、100mで優勝したシェリーアン・フレイザープライス選手(ジャマイカ)は、身長160cmくらいじゃないですか。決して体が大きいから速いわけじゃないというのを見ると、(自分の)可能性もゼロではないんじゃないかな、と」

 帰国後、土井は10月の国体に臨んだ。少年Aの部(高校2、3年生)で見事優勝したものの、彼女の表情は冴えなかった。記録は11秒72に止まり、2位に0秒09差という危ないレースだったのだ。後半は珍しく力んで、いつものような伸びはなかった。レース直後に土井は、「あんなに力んだのは生まれて初めてです」と漏らした。

「『五輪代表だからしっかり走らなくては……』という気負いはなかったと思うのですが、『記録を狙いたい』などの欲が出て、走りが崩れてしまいました。五輪前は本当に『気持ちよく走ろう』という思いしかなかったんですけど、いろいろと余計なことを考えてしまったのがいけませんでした。五輪で、個人でも参加標準記録を破っていなければ世界では戦えないというのを感じたので、その思いを持ち過ぎて空回りしたんだと思います」

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