【陸上】オスカー・ピストリウス「自分を取り戻した、ロンドン最後の夜」 (2ページ目)

  • 星野恭子●取材・文 text by Hoshino Kyoko
  • 越智貴雄●写真 photo by Ochi Takao

 続いて行なわれた100mは若手選手の台頭が著しく、ピストリウス自身も大会前から「タイトル防衛が最も難しい」と不安を口にしていた種目だった。200m後の発言で物議をかもしたこともあり、観客の声援は心なしかいつもより小さく聞こえた気がした。レースに臨む彼の表情も走りも固く、結局4位に終わった。

「最近の調子から連覇は難しく、現実的にはトップ3に入れればと思っていた。才能あふれる若い選手がでてきて嬉しい」と話した。オリビエラ選手は7位だった。

 初参加となった4x100mリレーはチーム戦でもあり、ピストリウスを少し楽にした種目だったかもしれない。南アフリカ代表は先の世界選手権で優勝し、タイム的にも米国がもつ世界記録にあと一歩と迫っていた。果たしてロンドンでは実力を存分に発揮して、世界新記録で優勝を果たす。ピストリウスはようやく、今大会初の金メダルを手にした。「嬉しい!」。少しずつ、ピストリウスの表情が和らぎ始め、観客の歓声も元の音量へと徐々に戻っていくように感じた。

「最も得意な種目」とピストリウスが絶対の自信をもつ400mの決勝は大会最終日、陸上の最終種目だった。この種目で五輪にも出場し、準決勝進出を果たした種目だけに、無事に予選を通過したピストリウスは決勝では、スタンドからの大歓声で迎えられた。スタートでの表情は集中なのか緊張なのか少し固いように見えたが、号砲と同時に反応のいいスタートから立ち上がると、磨いてきたコーナーワークで曲走路を駆け抜け、最後の直線では後続を寄せ付けない力強い走りでフィニッシュに飛び込んだ。

「僕の専門である400mでタイトルを守れて、本当に嬉しい。これで2012年の最後を最高のレースで終えることができ、ほっとしている。レース前はとてもナーバスになっていたし、少し疲れもあった。この夏はオリンピックという夢が叶って本当に素晴らしかった。それに、パラリンピックでも、金メダル2個に銀が1つ、そして世界新記録も2つつくれた。これ以上の結果は望めない。温かい声援に心から感謝したい」

 400mの表彰式のためにスタジアムに再び現れたピストリウスに、場内を埋めた8万人の大歓声が降り注いだ。12日間の大会期間中、いろいろあったが、「ピストリウスは、やっぱりピストリウスだった」と思えたロンドンでのパフォーマンスだった。

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