なんくるないさ。車いすマラソン・喜納翼、東京パラで羽ばたくための戦略 (2ページ目)

  • 星野恭子●文 text by Hoshino Kyoko
  • 吉村もと●写真 photo by Yoshimura Moto

 最初は車いすバスケットボールにも惹かれたが、現在も師事する下地隆之コーチに声をかけられ、陸上を体験した。「レーサー」と呼ばれる陸上競技用車いすは大きな車輪2つに小さな前輪がついた三輪の車いすで、高速走行に特化した設計になっている。無駄をそぎ落として軽量化し、風の抵抗を少なくするため車高も低い。試しに乗って漕いでみた喜納は、その疾走感や爽快感に魅了された。

 本格的に始めてみると、持ち前の運動センスと負けん気の強さ、そして下地コーチの的確かつ熱心な指導もあり、才能が開花した。喜納は身長173cmでリーチが長く、それは大きなアドバンテージとなる。レーサーの車輪を漕ぐときに使うハンドリムと呼ばれるパーツにより長く触れていることができ、車輪に力を加えつづけられるからだ。名前である"翼"のように両腕を広げて躍動させ、リズミカルに力強く走る。

 短距離から徐々に距離を伸ばし、2015年秋には大分国際車いすマラソンのハーフの部で3位に。翌年には冒頭で記したように初マラソン初優勝の快挙を果たした。2017年からは大分国際に加え、東京マラソンや海外のエリートレース、ロンドンマラソンにも挑戦。それぞれ異なるコースで、世界のトップランナーたちと競い合い、駆け引きや効果的なコース取りなどレース経験を積み重ねている。

 強さを支えるのは豊富な量と質の高い練習だ。週5~6日、平日は就業後に競技場で2~3時間、メニューに沿って練習する。緩急をつけたスピード練習や、持久力養成のため40kmを走ることもある。トラック100周は、「メンタルの強化にもなる」と言い、雨の日も休まず、室内のローラー台に車いすを固定して、ひたすら漕ぐ。

 週末は起伏の多いロードを走り、実戦感覚も養う。「苦手」と明かす上り坂では前方にライバルたちの姿を思い描きながら、ハンドリムをたたく手に力をこめる。さらに、車いすを漕ぎ続ける上半身の筋力や体幹の強化のため、筋力トレーニングも欠かさない。

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