プロ車いすバスケ選手は日本で1人。ドイツの強豪チームで孤軍奮闘中 (4ページ目)

  • 斎藤寿子●取材・文・写真 text&photo by Saito Hisako

 そんなことも頭をよぎったと言う。

 しかし、ついに指揮官が動いた。3Q残り5分、香西をコートに送り出したのだ。すると途端に試合のトーンが一変。それまでのスローペースな展開から、一気にスピードアップしたのだ。明らかにトランジションの速い香西のプレーによるもので、それは会場の雰囲気までをもガラリと変えてしまうほどだった。

「まずは自分の持ち味を出して、チームにいい流れを作りたいと思って入りました。ディフェンスではジャンプアップやローテーションのタイミング、オフェンスではバックピックに行ったり、あるいはすぐにゴール前に走って相手を引きつける。日本代表で身に付けた力を出そうと思っていました」

 香西はコートに立つと、すぐにディフェンスリバウンドを取り、そのままドリブルで運んだ。そしてその日、1本目のシュートとなるミドルシュートを決めた。それはまるで「香西宏昭、ここにあり」とでも言うような、鮮やかな1本だった。実際、香西はその後、一度もベンチに下がることなくコートに立ち続けた。

 結果的にチームは逆転することはできなかった。しかし、その試合以降、香西の起用のされ方は、それまでとは明らかに異なっている。スタメンこそないものの、試合の流れをつかもうとする大事な前半から出場し、また香西を含めた昨シーズンのスタメン5人のラインナップが使われることも少なくない。プレータイムも増え続けており、クリスマス休暇前の今年最後の試合となった12月8日には、今シーズン最長の27分超となった。ベンチを温め続けた時期も準備を怠らず、与えられたチャンスをしっかりとものにした香西。彼は再び強豪ランディルの主力の1人となりつつある。

 トッププレーヤー達がしのぎを削る厳しい世界に身を置き、プレーヤーとして人として、常に成長し続けようとする日本のエースは今、ドイツの地で"闘い"続けている。

4 / 4

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る