国枝慎吾、「履歴書」の更新なるか。ウインブルドン初制覇へ秘策あり (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Getty Images

 新スタイル完成を目指して技を磨き、同時に今年1月の全豪には、メンタルトレーナーのアン・クインに帯同を依頼した。クインは2006年に、世界1位に上り詰めた国枝を支えた重要人物のひとり。それから10年以上の時が流れ、ふたたび頂点を目指して山を登り始めた国枝は、原点回帰と言わんばかりにクインの指導を求めたのだ。

 そのうえで国枝は、プレー面ではさらなる新境地開拓を目指す。より攻撃的で早い展開力を志向して、この春から新たなコーチに師事し始めたのだ。新コーチの岩見亮(たすく)は、ネットプレーを得意とする。

「今後さらに進化していくためには、前での勝負が必要になる。ネット前のプレーを見直していきたいので、ネットプレーが上手な岩見さんからどんどん教わっていきたい」

 まるで若手選手のように向上心を熱く語る国枝は、「まだ僕のなかで、眠っている引き出しがあるんじゃないかと。それを引き出してもらえるような指導を求めていた」と言った。

 ウインブルドンを制するためのカギも、新コーチとともに模索しているものだろう。

 2バウンドまで許される車いすテニスでは、サーフェス(コートの種類)に応じた戦術の変化が、一般のテニス以上に求められる。芝のウインブルドンで威力を発揮するのが、遅いハードコートやクレーではあまり効果的ではなかったスライスだ。

 現在の国枝の最大のライバルは、攻撃テニスを身上とする20歳のアルフィー・ヒューイット(イギリス)。芝を得意とするこの地元イギリスの若い力に打ち勝つためにも、全仏優勝後の国枝は、早くも「芝に向けて、スライスの練習を徹底していきたい」と言った。

 1月の全豪を制したとき、地元記者から国枝に「復帰を果たしたシンゴ・クニエダが、次に向かうステージはどこなのか?」との質問が向けられた。

"車いすテニス界のフェデラー"は、顔中に笑みを広げて即答した。

「New SINGO is coming!」

――新しいシンゴがやってくるんだ――と。

 その「新生シンゴ」誕生の証(あかし)には、まだ手にしていないウインブルドンのタイトルが相応しい。

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