【将棋】米長邦雄永世棋聖の「最後の弟子」杉本和陽六段が語る、勝負に厳しかった師匠から受け継いだもの (3ページ目)
【「厳しい時代がやってきた」。AIが将棋に与える影響】
その対局からAIは進化を続け、対局中継でAIによる優勢・劣勢の数値が登場する光景も一般的になっている。
杉本六段は「近年の将棋は、棋士が『AIが考える最善の手にどのように近づくか』を考えることが主流になりつつあり、盤上も自分の個性や哲学を投影しにくくなっているような印象もあります。純粋に盤上の技術が評価されることになり、ある種の"将棋の真理"に近づいたのかもしれませんが......。棋士にとって厳しい時代が到来したのかなと思っています」と、私見を述べた。
遡ること30年ほど前、まだ年号が平成だった1990年代は、杉本六段のような"振り飛車党"の棋士たちは「いかに相手の穴熊を組ませないか」を考え、勝利を積み重ねてきた。藤井猛九段は、四間飛車の一種である「藤井システム」を採用して第11期竜王戦(1998年)を制し、同タイトル初の3連覇を成し遂げた。
対する"居飛車党"も、崩されない穴熊を組む方法を模索し続けた。代表格の羽生善治九段は「組んだら勝率9割以上」と言われる穴熊を武器にして、1995年に七冠を獲得。圧倒的な強さを誇ったが、いずれの戦法も近年はAIによる研究が進められ、かつてほどの威力は薄れつつあるという。
そして、杉本六段が戦法に用いる「振り飛車」も、飛車を右翼に残したまま戦う「居飛車」と比べて、AI最盛期の現代においては洗礼を受けやすい傾向にある。
「私がかつて愛用していた『ゴキゲン中飛車』(飛車を5筋に振る中飛車戦法)は、特に厳しい評価を下されています。一方では、AIの高評価を背景に『ノーマル振り飛車』に再び注目が集まっていたりもする。総合的に見ると、AIの登場によってさまざまな戦法の研究が進み、将棋がより面白くなっているように感じます」
そのように将棋界の現状を語る杉本は、自身の思いを続けた。
「私も使う『振り飛車』は、まだまだ研究の余地が残されていて、個性的な手も出しやすい。将棋の魅力が詰まっている戦法だと思っているので、これからも将棋を楽しみながら技を磨いていきたいです」
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