パリ五輪へ明るい光を灯す「体操・日本女子」新時代の主役たち 宮田笙子、岸里奈、中村遥香らが躍動 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 岸本 勉●写真 photo by Kishimoto Tsutomu

【伸びしろ十分な15歳の中村】

予選では宮田に迫った中村遥香 photo by Kishimoto Tsutomu予選では宮田に迫った中村遥香 photo by Kishimoto Tsutomuこの記事に関連する写真を見る

 日本女子にとって、パリ五輪での団体戦で表彰台に近づくためには、個人総合で54点台を出せる選手が宮田と岸以外にもうひとり必要となってくる。

 その点では、高校1年の中村遥香(なんば体操クラブ/相愛学園)が予選でトップの宮田に1.000差の53.966点を出し、総合でも3位と代表圏内に食い込んできたことは大きな収穫だった。

 昨年は3月末からの世界ジュニアの個人総合と団体で優勝し、4月の全日本は8位。さらに6月のアジアジュニアは個人総合と団体、種目別段違い平行棒とゆかで優勝と、実績を残した。なかでも、世界ジュニアの段違い平行棒で実施した「前振り半ひねり前方屈伸宙返り高棒懸垂」はD難度で「ナカムラ」と命名された。

 なんば体操クラブの山崎隆之コーチによれば、「今年の冬場は(演技の完遂度を示す)Eスコア(実施点)を上げることを目標にトレーニングしてきた」というが、今回の予選は、昨年の全日本予選よりDスコアが0.9点高くなった構成。段違い平行棒と平均台では全体2位の13.800点と13.933点を出し、ゆかも全体3位の13.233点で合計54点に迫った。

 Dスコアが高い段違い平行棒と平均台で、Eスコアもしっかり取れるのが自分の強みという中村。「もともと、膝やつま先が綺麗だったりする部分もあるし、技の正確さもあるんじゃないかなと思っています」と話す。そして「今日は段違い平行棒と跳馬で、練習でやっているものより難度を落としてノーミスで終えることを意識してやったので、ちゃんとできてよかったと思う」とも話した。

 13日の決勝は「落とした難度を上げて攻めていきたい」と話していたが、それは回避。最後のゆかはリズム感のある演技をしたが、着地で片足が場外ラインを踏むミスで0.1点の減点あり12.466点と落としたが、それでも合計は53.165点で、予選と合わせた合計は107.131点と3位に踏みとどまった。

 だが、先を見れば、課題にしている跳馬は現在1回ひねりだが、今回は挑戦を控えたユルチェンコ1回半ひねりが導入できれば0.4点上げられる。また段違い平行棒でもG難度「後方伸身宙返り1回半ひねり高棒懸垂」(通称、デフ)を持っていて、それが入ればDスコアは0.4点アップの6.1点と伸びしろは大きい。

 田中本部長も、その点に期待を寄せる。

「段違い平行棒の『デフ』は団体ではなかなか使わないかもしれないけど、もし種目別に残った時には攻められるというアピールができる部分もある。試技会では54点を取れる実力を見せてきているので、彼女は非常に頼もしい存在だと思います」

 中村は自身の演技について、こう振り返った。

「平均台に関してはよかったと思うけど、跳馬と段違い平行棒は練習していた技をひとつ上げた演技はできなかったので、攻めた構成でも自信を持ってできるようにしたい。あと、ラストのゆかは緊張して着地とかも乱れてしまったので、緊張したなかでもちゃんとまとめられるようにしていきたいです」

 初めて見たオリンピックは、中村が8歳の時のリオデジャネイロ大会。憧れたのは女王のシモーネ・バイルス(アメリカ)ではなく個人総合4位のシャン・チュンスン(中国)だった。その理由を「アメリカ人選手はすごいと思ったけど、体型はちょっと自分には合っていないと思い、中国の選手だったら目指せるのではないかと思ったのがきっかけです。技のすごさや美しい体操を見てすごいなって思いました」という。そんな持って生まれたクレバーさも彼女の魅力のひとつだろう。

 東京五輪後に主要メンバーがガラッと変わった体操・日本女子。団体戦では1964年東京五輪以来、オリンピックでの表彰台から遠ざかっているが、新勢力の急成長がパリ五輪への期待を膨らませている。

 体操のパリ五輪代表は、5月16日から20日まで開催されるNHK杯の結果を受けて選考される。

プロフィール

  • 折山淑美

    折山淑美 (おりやま・としみ)

    スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。

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