内村航平が引退後も持ち続ける王者の思考 体操が「できなくなっていく自分も面白い」 競技生活は「よく頑張ったとは思わない」 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

【天才じゃないから面白かった】

―― それは前にも話していたように、「自分は天才ではない」という思いもあるから努力を続けるしかないと。

「そうですね。天才は練習をやらなくてもできるから、続かないのかなと思います。たぶん、やったら直ぐにできてしまうから面白くないんだと思います。今まで見てきた『天才だな』と思う人たちは、そういう人ばかりでしたね。大事な場面でできるかといえば、そうではない人が多かった。結局、どれだけ準備をするかが大事なんだと思います。ただ僕の場合、ここまでくると『続けなきゃいけない』というような義務にもなっちゃうんですけど、自分を維持しなきゃいけないので、気持ちが上を向いていない時でもやらなければいけないんです(笑)」

―― これから体操界を盛り上げていくためにも、自分も演技をするところを見せなければいけないですね。

「そうですね。ある程度は見せることも大事ですよね。やっぱり目の前で見せることがどれだけ破壊力があるかというのは、現役を辞めてみて感じています。現役の時も多少は感じていたけど、そこまで感じたことはなくて。今は試合ではなくイベントでしか僕を見せられないので、そういうときにいかにインパクトを残すかということをすごく大事に思ってやっています」

―― 体操普及のためにこれからやりたいことも、いろいろ考えていると聞きました。

「もちろんアイディアはたくさんありますが、まずは体操の試合があることや体操のことを知ってもらわないと意味がないので、今はそれが目標ですね。体操の試合は『見にきてよ』と言っても、僕が面白くないなと思っているくらいだから、普通の人が見ても面白くないんです(笑)。見せ方もそうだし、ルールがわかりづらいとか、何をやっているのかわからないとか......。僕がギリギリ面白いと思えるものでやっと、『来てもらえるかな』と自信が持てるくらいですね。

 だからまずは、体操って何なのかというのを、ちゃんと知ってもらうことからだと思っています。難しい技ではなくて、学校の体育で誰もがやっていることの延長線上に僕らがやっていることがあるというのを、まずは伝えたいです。そこからこういうふうに技が進化していくとか、みんなに『あぁ、なるほど』と思ってもらえるように説明するイメージで。

 見てくれる人の知識がちょっとずつ増えていって『なんとなくわかるな』くらいにまでにはしたいですね。子どもたちには『そうすればできるんだ』と思ってもらえるかもしれないし、大人には『こういう感じで技は進化しているのか』と知ってもらえれば、会場やテレビで見た時にも楽しんでもらえるのかなと考えています」

* * *

 3月に羽生結弦のアイスショーに出演した時には、「体操もショーとして成り立つな」という考えも浮かんだ。だが、最終的には「まずは試合を見てもらいたい」という思いから、「ショーのほうが面白い」となったら本末転倒だとも言う。

 自分の価値を見せるのではなく、体操の価値を上げるために、もっといろいろなことをやらなければいけないと言う内村。「本当にやることはたくさんありすぎて、『何からやっていくの?』という感じなんです」と言って苦笑するが、引退後も充実しているようで、これからのさらなる活躍にも期待したい。

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