2021.08.16

伊調馨からは「早く負けろ」。須﨑優衣が3度の敗北から金メダルを掴むまで

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • photo by JMPA

 62kg級の川井友香子と57kg級の川井梨紗子(ともにジャパンビバレッジ)、そして53kg級の向田真優(ジェイテクト)と50kg級の須﨑優衣(早稲田大)。東京オリンピックの日程後半に行なわれたレスリング競技で、日本からは4名の女子金メダリストが誕生した。

 そのうちのひとり、須﨑優衣は1回戦から決勝戦まで4試合失点ゼロで、しかもすべてがテクニカルフォール勝ち。それは、五輪4連覇の伊調馨や3連覇の吉田沙保里でもなし得なかった快挙だった。

金メダリストとなった須﨑優衣は早稲田大4年の22歳金メダリストとなった須﨑優衣は早稲田大4年の22歳 この記事に関連する写真を見る  2019年に須﨑は国内の代表選考レースでライバルの入江ゆき(自衛隊体育学校)に敗れ、東京オリンピック出場の可能性が「0.01%」になりながらも奇跡的にチャンスを掴み、日本代表に選ばれたことはよく知られているだろう。だが、須﨑は2019年以前にも入江に黒星を喫している。それも、2回。

 須﨑は48k級と50kg級において、絶大な強さを誇っている。出場した世界大会はすべて優勝し、外国人選手相手には70連勝無敗。中学生となってから、わずか3回しか負けていない。つまり、そのすべての敗戦相手が入江というわけだ。

 全国少年少女選手権を3度制し、中学生になるといきなり全国中学生選手権と全国中学選抜大会の2冠を達成。中学2年からJOCエリートアカデミーに所属し、世界カデット選手権などを含め国内外で負けなし。周囲からは「東京オリンピック期待の星」「2020の申し子」と評された。

 もちろん、本人もオリンピック出場は遠い夢ではなく、必ず行くものとして捉えていた。しかし、自信に満ちて臨んだシニア初挑戦となる2015年12月の全日本選手権、須﨑は7歳年上の入江に0−10のテクニカルフォール負けを喫してしまう。

「何も通用しませんでした。技も力も......。とにかく、悔しかった。でも、逆にオリンピックが自分のなかで明確な目標になりました」

 それまでは、同世代の選手との戦いだけだった。だが、年齢がいくつ上だろうが、どれだけ実績のある先輩だろうが、すべて倒さなければオリンピックには出られない。須﨑は"現実"と徹底的に向き合うため、2位に終わった表彰状をエリートアカデミーの寮にあるベッドの上の天井に張りつけた。