浅田真央「伝説のトリプルアクセル」を
見た記者の体はブルブル震えた

 ヨナは技術と表現の両面において完成度の高い選手だった。スケーティングはスピード感に溢れ、得点の高いコンビネーションジャンプの成功率も高かった。

 そして迎えたバンクーバー五輪でヨナは、SPとフリーの歴代最高得点を更新する演技を見せる。その演技の"高すぎる技の加点"は日本でも大きな議論となり、当時のジャッジシステムに納得できないファンも多いだろう。しかし結果として、浅田はヨナには及ばなかった。

 ただ、フリーではジャンプのミスも出たが、浅田が最後までこだわったトリプルアクセルをすべて決めたときには体が震えた。当時、「トリプルアクセルにこだわりすぎて他の技がおろそかになった」という声も散見されたが、浅田の強い思いが演技に乗り移り、見ているすべての者の心を揺さぶったことは間違いない。

 あくまで個人的な見方だが、このときのフリープログラム『鐘』は、もっとも"浅田らしい"プログラムだと思っている。浅田は2017年4月に引退したが、またどこかでこのフリーが見たいものだ。

 一方で、日本男子として初の表彰台に立った髙橋大輔の演技も素晴らしかった。

 近年、男子のフィギュアスケートは「何種類の4回転ジャンプを、いくつ跳んで勝つか」という世界になりつつあるが、当時の4回転はまだギャンブル性の高い大技だった。負担を少なくジャンプを跳ぶための技術や練習方法が今ほど確立されておらず、大きなケガをする選手も多かった。

 2005年ごろから4回転ジャンプに取り組んでいた髙橋の体にもダメージが溜まっていたのだろう。2008年10月の練習中に、右ヒザの前十字靭帯と半月板を損傷。手術後にリハビリを重ねたものの、氷上での練習を再開できたのは2009年4月のことだった。

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