過熱するフィーバーにも稀勢の里は「不動心」。新横綱の2週間に密着 (3ページ目)

  • スポルティーバ●文 text by Sportiva
  • photo by Kyodo News

 通例では、横綱昇進に関する一連の行事はここで終わるのが、翌日の28日も新横綱は休まない。田子ノ浦部屋のある江戸川区の小岩小学校で行なわれた「優勝報告会」に出席すると、ここでも校庭に4500人のファンが押し寄せた。小学生からの質問コーナーで、「稽古で苦しい時、どんなことを考えていますか」との問いに、「必ず稽古した分、返ってくると信じている。必ず結果がついてくる」と、自らの相撲人生で学んだ経験を子どもたちに伝授した。

 関係者によると、江戸川区では昇進祝賀パレードを打診していたというが、本人が辞退。他にもイベントやCM出演など、水面下でオファーが届いたようだが、協会行事など必要なもの以外は固辞しているという。「すべては土俵中心という気持ちの表れでしょう」と関係者は新横綱の胸中を代弁する。

 そんな土俵中心の姿勢は2月1日の稽古再開にも表れた。休むことなく部屋の稽古場に下り、通常の倍以上となる約40人の報道陣が挙動に注目する。その中でも新横綱は、いつもの稽古再開日と変わらず、四股とすり足を中心に下半身の強化を入念に繰り返した。稽古再開日の2日前から、2時間の散歩も始めていたという。2月は巡業がないため、部屋でじっくり腰を落ち着けて稽古できる。「しっかり体を作っていきたい」と、新横綱として挑む春場所へ照準を合わせていた。

 3日は、毎年恒例となる成田山新勝寺で節分の豆まきに参加。前年より1万8000人多い6万8000人のファンの前で、白鵬と握手を交わすなど珍しくファンサービスに努めたものの、その2日後の大相撲トーナメントでは、頂点に立つ者の自覚を見せた。

 横綱の白鵬、鶴竜が早々に敗退するなか、稀勢の里は本場所と変わらない真っ向勝負で5番を戦い抜き、初優勝を飾った。番付に影響のない花相撲は、本場所と同じ気持ちで臨むことが難しいのだが、このトーナメントは41年の歴史がある重要な大会として協会も重視している。「こういうトーナメントは大事。優勝できて自信になる」と、看板力士として真摯な姿勢を貫いたことは、まさに「綱の自覚」だった。取組みの前には、国技館で初となる横綱土俵入りも披露し、「声が中央に集中する」とファンの大歓声に感激したようだ。

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