【レスリング】全日本選抜を制した吉田沙保里の「もうひとつの敵」

  • 布施鋼治●文 text by Fuse Koji
  • photo by AFLO

村田夏南子(左)のパワーに苦しめられ、薄氷の勝利で優勝を遂げた吉田沙保里(右)村田夏南子(左)のパワーに苦しめられ、薄氷の勝利で優勝を遂げた吉田沙保里(右)「9月に最終の決勝戦が残っている。残っている若い人たちが夢を見られるようにしたい」

 6月16日の全日本選抜レスリング選手権大会、女子55キロ級決勝のヒーローインタビューが終わりに差しかかった時のことだ。決勝で村田夏南子に大逆転勝利を収めた吉田沙保里は、そんなことを口にした。

 最終の決勝戦とは、9月8日にアルゼンチンの首都ブエノスアイレスで行なわれる、IOC総会での決戦投票を指す。それによって、2020年のオリンピックで実施される残り一枠の競技が決まるのだ。この大会で2年ぶり11度目の優勝を達成した直後にもかかわらず、吉田は「もうひとつの敵」と戦っているようにしか見えなかった。

 レスリングが五輪種目として、存続の危機に立たされている。今年2月13日、IOCはロンドン五輪で実施した26競技の中から、レスリングを除外する方向で話を進めていくことに決めた。3歳からレスリングに親しみ、「人生=レスリング」といっても過言ではないレールを歩んできた吉田にとって、IOCの決定は晴天の霹靂(へきれき)だった。

 ロンドン五輪後、吉田は日本で初の国民栄誉賞を受けたレスラーとして、あるいは東京オリンピックの招致メンバーとして多忙を極めたが、この除外問題でそれどころではなくなってしまった。五輪種目からレスリングが外されてしまったら、吉田が東京に五輪を招致する理由はなくなってしまう。

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