【レスリング】吉田沙保里の願い。「ロンドンでは父を肩車したい」

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • YUTAKA/アフロスポーツ●写真 photo by YUTAKA/AFLO SPORTS

黒星から2ヵ月。笑顔を見せるようになった吉田沙保里黒星から2ヵ月。笑顔を見せるようになった吉田沙保里 ロンドン五輪開会式まで残り2ヵ月となった5月27日、東京で行なわれた女子レスリングワールドカップで、吉田沙保里はまさかの黒星を喫した。北京五輪前から続けていた連勝記録も58でストップ。それでも日本女子初の五輪3連覇に向け、『クイーン・オブ・レスリング』は立ち上がった。

「あなたの本番はロンドンでしょ」と励ましてくれる母。余計なことは言わず、細かく技術をチェックしてくれる父。大学入学以来、10年以上にわたって指導する栄和人日本代表女子監督。ロンドンでともに闘うチームメイト。大学の後輩。全国からメールを寄せてくれたファン......。そうした力が、吉田を支えたのは間違いないだろう。

 それだけではない。吉田には修羅場をくぐり抜けてきた経験もある。北京五輪の7ヵ月前、連勝記録が119でストップ。初めて外国人選手に敗れた。しかし、吉田は敗戦から学び、タックル返しというわずかのスキをもつぶし、完璧なレスリングで五輪2連覇を達成した。

「ここで足踏みしているわけにはいかない。気持ちを入れ替えて突き進まなくては」と語る彼女に誰もが安堵し、北京と同じようにロンドンでも金メダルを獲得すると信じた。ところが、どんなに気丈に振舞っても、吉田の心はまだ完全に晴れわたってはいなかった。

 そんな吉田にとって、これ以上ない朗報がもたらされた。日本代表選手団の旗手指名だ。ユニバーシアードやアジア競技大会で旗手を務めたことがあり、責任の重さ、緊張感は十分理解している。もちろん、選手団の主将や旗手になると、いい成績を挙げられないというジンクスも知っている。それでも、「日の丸を掲げて、日本選手団全員の先頭を歩けたら『チョー気持ちいい』でしょうね」と心から望んでいた。20年近くにわたって女子レスリング界をリードし、アテネで日本選手団旗手を務めた先輩・浜口京子と肩を並べることができる。レスリング界で、やり残したことはない。同僚・伊調馨や北島康介が自分とともにオリンピック3連覇を成し遂げようとも、旗手を務めれば「ロンドン五輪は吉田沙保里の大会」と人々の記憶に残る。吉田のモチベーションはMAXとなった。

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