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宇野昌磨が"師匠不在"でつくり上げるショーは「お客さん視点」 猛練習中のバックフリップは「乞うご期待!」 (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki

【"師匠"が戻ってこざるを得ない舞台に】

 今年7月のインタビューで、競技シーズンに入りコーチ業があるため『Ice Brave2』に出演できないステファン・ランビエールの代わりをどうするか、宇野に尋ねたことがあった。

「ステファンの代わりは想像しきれてないですね。ステファンは師匠というか、関係性も特別じゃないですか? そもそもコーチであれだけ滑れる人なんてなかなかいない(笑)。今は、"こんな挑戦をしたい"というのはいくつか考えているんですが、ステファンが抜けたなか、何をすることで『1』よりも『2』がいいと思ってもらえるか。そこはプロデューサーとして考えないと......」

 ひとつ言えるのは、ランビエールのスケーティングは次元が違うということだ。重々しく静ひつで、明るくリズミカルで、変幻自在。今回、『1』のセットリストにあった『Timelapse』は『月光』に切り替わったが、それはランビエールか宇野にしかできないプログラムだったからではないか。その不在はハンデだ。

 しかし今回、新たに2人(吉野晃平、佐藤由基)が加わった。それによって起こる化学反応に宇野は期待していた。ショーに慣れた2人に頼れる寛容さもあった。

 一方、宇野自身がランビエールの演目だった『Gravity』を引き継ぎ、世界観を継承した。そもそも現役時代に滑った曲で、コーチだったランビエールから託されたものである。それもひとつの演出か。ランビエールがいた舞台を超えるのではなく、異なるものにした。

 そして宇野はショーに挑むプロスケーターとして、新たなチャレンジもしていた。

「バックフリップは間に合わなかったです」

 宇野は悔しそうに言ったが、危険な後方宙返りを練習していたという。ショーにおけるひとつの出し物だ。

「皆さんが、どれだけの練習量を想像しているかわからないですけど、だいぶ食い下がりました。夜中3時、4時まで付き添ってくれた人たちに『まだいけますか?』って粘りながら。でも、想像以上に難しかったです。何より危なくて......。

 皆さん、できている人のバックフリップを見ているかもしれません。あの人たちはポンって飛ぶんですが、まず普通は上がらない。上がるには上に跳ぶしかないんですが、回れなかった時は頭から落ちてしまう。そこのせめぎ合いはあって、現役時代を思い出しました(笑)。かなり苦戦していますが、諦めていないので空き時間を狙って練習を続けていきます。乞うご期待、お待ちください!」

 何も、宇野ほどのスケーターがバックフリップをする必要はないかもしれない。しかし、彼はショーという驚きと娯楽が求められる世界で現状に甘んじたくないのだろう。それも彼のプロとしての矜持だ。

 最後の『ボレロ』は、優雅なスケーティングにも鬼気迫るものがあった。足には疲れがたまってひと蹴りも大変なはずだが、丁寧に滑りきり、座長として格の違いを見せた。

「ステファンが戻ってこざるを得ないような場所をつくっていきたいです!」

 宇野の言い回しは、プロデューサーの気遣いが出ていた。ランビエールは唯一無二だが、新たに加わったふたりを含めた8人でショーをやり遂げる。その強い決意だ。

後編へつづく

著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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