宇野昌磨「見せていいところとダメなところは意識している」 『Ice Brave2』で見せるプロフェッショナリズム (2ページ目)
【見せる部分にこだわる座長の作法】
そこからも怒涛だった。タンゴ『ブエノスアイレス午前零時』は、グループナンバーだったが、宇野を中心に6人が競演した。
最後に真っ赤なドレスの本田真凜が登場し、『天国の階段』ではフラメンコの律動で艶かしくも高潔に観客をあおった。スパイラルで盛り上がりが最高潮に達すると、再び宇野がソロで舞い、『Your Last Kiss』ではトーループやアクセルを降りた。疾走感のある滑りで、黄金のような髪がなびいた。
相当なエネルギーを、それぞれのスケーターが使ったはずだ。そこでショー中盤にあるMCタイムで、ひとりのスケーターは息が上がってしまった。少し疲れて消耗したように見えた。その日2回目の公演だけに疲労がたまるのは無理もないが......。
「これが1回目の人(観客)もいるので、疲れてなさそうにいきましょう!」
宇野はやんわりと声をかけ、会場全体を明るくした。その後はスケーターたちが「元気」をアピールし、見事に活気は増している。宇野自身が誰よりもエネルギーを使っていたが、プロのスケーターあるいは座長の作法のようなものを率先して見せた。
「『Ice Brave』は『1』に引き続き『2』も、体力面はきついんですが......」
宇野はそう言って、こう続けている。
「自分の強みは競技者時代から、全部において出しきる、やりきるってところで。ペース配分とかはあまり考えられないから、すべてに全力で挑み、きつくなったらきつくなった時に考える。それがずっと続く、自分なりの一生懸命でした。たとえば、自分たちキャストは何公演目って数えますけど、そのなかの1回しか見ない人もいるはず。自分たちがきついと感じる部分を、見せていいところとダメなところは意識していますね」
おそらく、そのプロフェッショナリズムこそが、『Ice Brave』のベースだろう。今年7月、『Ice Brave』公演後のインタビューで宇野に問うたことがあった。
ーー現役引退してたった1年、ここまでプロスケーターとして活動している自分を俯瞰してどう思いますか?
「不思議というか......なんですかね。『プロになって現役の時より練習するようになった』という話を聞いていたんですが、その意味がよくわかりました。今回、初めてプロデューサーという大役を任されたのはあると思いますが、言い回しとしてよく使われる『プロになってより自由になった』というのが、まさにそのとおりだなって。
もっともっとうまくなりたいって現役の時にも思い描いていたことですが、うまくはなりたいけど、点数にはならないからとブレーキをかけていたところが解消されました。プロは、皆さんを楽しませることだけをひたすら磨き続けられる。自由っていうことは、やることが無限にあって、すごく充実していているんですよ」
宇野は表現者として無限の入り口に立ったのだ。
著者プロフィール

小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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