宇野昌磨と師匠ステファン・ランビエールが『Ice Brave』で見せた絆「今ではショウマがリーダー」 (3ページ目)
【会場に伝播する優しい空気感】
2020年12月、宇野が全日本選手権優勝で華々しく復活を遂げたあと、ランビエールが臨時コーチになっていたが、当時語っていた言葉は忘れられない。
「(復活に)秘訣はいっさいありませんよ」
ランビエールは、静かだが明瞭な口調で言った。
「昌磨は、(ショートプログラムとフリー)ふたつのプログラムを楽しんで演じていました。ジャンプだけでなく、他の技術点の部分などすべてそう。アグレッシブな姿勢で滑ってくれたことを、コーチとしてうれしく思います。彼はスケートを楽しめる。厳しい練習のなかでも、楽しさを感じられるのです」
さらにこう続けた。
「私はラッキーでした。昌磨の周りにいる人々が、コーチとして仕事をするための環境をつくってくれたのです。そのおかげで、短い時間で成果を出せました。昌磨が自信を取り戻す、そのためのトレーニングが十分にできるようになった。それが(優勝に至った)真実です」
ランビエールは語っていたが、宇野の周りには愛すべき関係性があるのだろう。それは、今回の『Ice Brave』にも通じる。出演者全員の距離感が近く、親密さが伝わった。たとえばMCタイムでは思わず感極まってしまい、言葉を継げない櫛田一樹を、ランビエールが優しく抱きしめていた。優しい空気感が生まれ、会場にも伝播するのだ。
「ステファンには何かを教えてもらうというよりも、いてもらって、見てもらえるだけでよくて」
かつて、宇野はそう言っていた。言葉以上の関係を紡げるのだろう。それが『Ice Brave』の正体とも言えるかもしれない。
「僕だけの力ではなくて、みんなのいいものにしようっていう気持ちのおかげです」
宇野は感慨深げに言っている。人に恵まれるのも、元世界王者の才覚のひとつである。
著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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