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4回転7本すべてで回転不足判定に「複雑だけど乗り越える」 王者イリア・マリニンにインタビュー (3ページ目)

  • 野口美恵●取材・文 text by Noguchi Yoshie

【判定には複雑な気持ちも「乗り越える」】

ーー7本の4回転に挑戦したものの、すべてのジャンプにqマーク(90度回転不足)やアンダーローテーションの判定がつきました。最初に得点を見た時はどう感じましたか?

 最初に見た時はちょっとびっくりしました。さすがに7つ全部とは思いませんでしたから。でも、あまり感情を表に出さないようにしました。これはジャッジ競技なので、時には自分が思っているような結果を得られないこともあります。

ーーどうやって感情を抑えたのでしょう?

 複雑な気持ちはありましたが、受け止めて、何を改善すべきかを見つめました。それを乗り越えれば、自分の強みにしていくことができます。今回は「あなたはもっとクリーンなジャンプを跳べる」というメッセージだと受け止めて、改善するためのモチベーションに変えようと思いました。

ーーまだ改善の余地はあると思いましたか?

 もちろんです。実際のところ今回はまだ、100%の準備はできていませんでした。あくまでも今回はテストケース。まずは7本挑戦してみることで、僕が何を改善する必要があるのか、どれくらいスタミナが必要か、確認したかったのです。そして今回、スコアシートで、何が必要かよくわかりました。僕は、ジャッジがわざわざ回転を判定しなくてもいいくらいクリーンなプログラムができるってことを証明したいし、できると思っています。

ーー7本の挑戦そのものは楽しめていたのか、緊張していたのか、どちらでしょう?

 とにかくエキサイティングでした。演技中は夢中で楽しんでいました。でもその挑戦が終わった今は、本当に多くのことを吸収できたので、早く世界選手権に向けて改善点を練習したいなと思っています。世界選手権はもう少しシンプルなジャンプ構成に戻すと思います。

ーーマリニンさんにとっての、最終目標となる演技は?

 ジャンプが何本か、ということは目標そのものではありません。僕にとって重要なのは、ただ自信を持って本番のリンクに降り立つことです。そして演技の瞬間と時間を楽しみ、心に刻むこと。それができるように、また練習していきます。

つづく

【プロフィール】
イリア・マリニン Ilia Malinin 
2004年、アメリカ・バージニア州生まれ。2022−2023シーズンからシニアへ移行し、USインターナショナルクラシックで史上初の4回転アクセルを成功。2023−2024シーズンにGPファイナルと世界選手権で初優勝。2024−2025シーズンはここまで、GPシリーズ・スケートアメリカ、スケートカナダ、GPファイナルなどで優勝を飾っている。

著者プロフィール

  •  野口美惠

    野口美惠 (のぐち・よしえ)

    元毎日新聞記者。自身のフィギュアスケート経験を生かし、ルールや技術、選手心理に詳しい記事を執筆している。日本オリンピック委員会広報としてバンクーバーオリンピックに帯同。ソチ、平昌、北京オリンピックを取材した。主な著書に『羽生結弦 王者のメソッド』『チームブライアン』シリーズ、『伊藤みどりトリプルアクセルの先へ』など。自身はアダルトスケーターとして樋口豊氏に師事。2011年国際アダルト競技会ブロンズⅠ部門優勝。

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