高橋大輔「宝石って人を惑わす」切なく、狂おしく『フレンズオンアイス』で表現した不思議な世界 (3ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【才能と繊細さが織りなす世界観】

「才能があるのに繊細な男の子で、どう成長するのか。それが(幼い頃の)大ちゃんの第一印象でした」

 荒川の高橋評である。そのセンスは、スケート界にあっても卓抜だ。

 高橋は競技者として男子シングルでは五輪初のメダルを獲得するなどパイオニアとなり、現役復帰して全日本選手権2位になって、転向したアイスダンスでも全日本で優勝している。どれも前人未到の快挙である。フィギュアスケートをやり抜くことで、表現者としても高みに達したのだろう。

 この日、高橋は3回転フリップでステップアウトしたが、今の彼はそれを云々される領域にいない。スケーティングの間合いだけで、人を引き込める。切なさや儚さや狂おしさを数分、数百秒でひとつに凝縮し、伝えられるのだ。

 シングルスケーターとして最後の年、高橋はインタビューで信条をこう語っていた。

「スケートを滑り続けたい。滑る仕事を続けていきたいです。スケート......やっぱり楽しいんでしょうね。当然、体はしんどいですよ。(着氷する)右足は練習後に腫れてしまって。体の軸は歪んでいるし、すぐに負荷がかかります。でも、何が楽しいのかって......たぶん、(表現で)会場全体がひとつになるのが好きなんですよ」

 その言葉に、表現者としての適性と自負を感じさせた。

 ショー2部、高橋はグループナンバー『Cell Back Tango』、さらに『Exogenesis Symphony Part3』とたくさんのスケーターと共演し、よさを引き出し、引き出されてもいた。そうした協力関係を結べるのが、彼の才能なのだろう。

 村元哉中とアイスダンスのカップルを組んだ「かなだい」の時代も、糧になっている。グランドフィナーレでは、サービスで村元とリフトを披露していた。

「それぞれのソロ、コラボナンバーも、すばらしい世界観が感じられるはずで。皆さんに来てもらって、楽しんでもらえればと思います!」

 高橋は笑顔で言う。宝石の輝きをーー。ショーは8月30日から9月1日まで、全6公演が行なわれる予定である。

「フレンズオンアイス2024」浅田真央 編を読む>>

「フレンズオンアイス2024」宇野昌磨 編を読む>>

著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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