羽生結弦が『ファンタジー・オン・アイス』で見せた新たな表現 思いがじんわり体に浸み込んでくる (2ページ目)
【新コラボはひと味違った表現】
そして、第2部の大トリで羽生が演じたのは、T.M.Revolutionの西川貴教とのコラボレーション。曲はアニメ『機動戦士ガンダムSEED』の挿入歌『ミーティア』だった。
羽生は、公演プログラムのインタビューでも「小学生の頃から聞いていたので、今回出演されると聞いてびっくりしました。どうやってコラボレーションしていけるか、すごくドキドキもしているし、ワクワクもしています」と話していた。
戦いに臨む者たちの、複雑な心情が表現されている歌詞。メリハリのある滑りのなかに、3回転フリップとトリプルアクセルを入れた演技は、これまでの激しい曲とのコラボレーションのような、自身の心情を爆発させるような激しさを正面から感じさせるものとは違った。
歌詞への思いをその瞬間ごとに直接伝えようとするのではなく、冷静にコントロールして流れに溶け込ませ、物語全体のなかから感じさせる滑り。思いが鋭い刃のようになって見る者に突き刺さるというより、見終わった時に彼の思いが、じんわり体のなかに浸み込んでくるような演技だった。
プロアスリートになってから2年。羽生はまるで突っ走るように、自分の世界を模索し、表現し続けてきた。そんななかでより熟成してきた彼自身のフィギュアスケート。今回の『ファンタジー・オン・アイス』ではそれを、明確に見せてもらった。
著者プロフィール
折山淑美 (おりやま・としみ)
スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。
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