高橋大輔「終わりでもあるけど、始まりでもある」 かなだいがエンターテイナーとして再スタート (3ページ目)
●エンターテイナーとしても一流
「アスリートは二度死ぬ」
昨シーズン開幕前、筆者はその概念で、切実に迫る「引退」について聞いたことがあった。
「(引退は)何かが欠けた時じゃないですか。精神的なものか、肉体的なものか、バランスが保てなくなったら。両方、必要かなと思うので」
高橋は心中を丁寧に説明していた。
「現役ってぎりぎりっていうか、時間も労力もそれだけかかります。でもパフォーマンスというか、表現というところだけだと、自分の得意なものだけでもいける。いろいろ挑戦で評価はされますが、点数がつくものじゃない。現役であり続けるって常にすべてのバランスの上に立っていないといけないところがあるんです」
そのバランスが崩れた。端的に言えば、膝は限界だった。シングル時代の前十字靭帯断裂は治癒したが、そのあとの人生も痛みや不自由さとともにある。
例えば正座はできないし、寒い日は膝の力が抜けてしまう。アイスダンスのリフトなどパワーと持久力を必要とするトレーニングでの負担が大きく、肉体的に追い込めないのだ。
しかし彼が語っていたように、表現に特化した場合、そのセンスはショー全体にまで行き渡る。『氷艶』で証明したように、エンターテイナーとしても一流の作品を生み出せる。可能性の広がりで言えば、無限になるのだ。
今回のショーでは、第1部にかなだいの演目もある。おなじみの『Love Goes』で息の合ったダンスは必見。わずか3年で世界トップテンに迫った"アイスダンスの残像"を感じられるはずだ。
ショーはオーヴィジョンアイスアリーナ福岡で、5月12日から14日までの6公演が行なわれる。
著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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