2021.01.25

羽生結弦は攻める。世界最高得点を連発した集中力と精神力

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

『羽生結弦は未来を創る〜絶対王者との対話』
第Ⅴ部 プログラムの完成(2)

数々の快挙を達成し、男子フィギュアスケートを牽引する羽生結弦。常に挑戦を続ける桁外れの精神力と自らの理想を果敢に追い求める情熱を持つアスリートの進化の歩みを振り返る。世界の好敵手との歴史に残る戦いや王者が切り拓いていく未来を、長年密着取材を続けるベテランジャーナリストが探っていく。

2015年NHK杯SP『バラード第1番』を滑る羽生結弦2015年NHK杯SP『バラード第1番』を滑る羽生結弦
 2014年ソチ五輪で金メダルを獲得した羽生結弦は「五輪王者だからこそ進化した姿を見せたい」と考えていた。2014ー15シーズンはフリーのみならず、ショートプログラム(SP)でも基礎点が上がる演技後半に4回転ジャンプを入れようとしたが、グランプリ(GP)シリーズ初戦中国杯の直前練習での激突事故、全日本選手権後の緊急手術などで実現できなかった。

 そして、『バラード第1番ト短調』を継続すると決めた15ー16シーズン、羽生は再びその挑戦をした。だが、シーズン2戦目のスケートカナダまでは「演技後半の4回転は難しい」という先入観にとらわれ、苦しんだ。

 スケートカナダはSPで6位と出遅れ、フリーも休養からの復帰戦だったパトリック・チャン(カナダ)に4点弱及ばず2位。その悔しさが、羽生の心に火をつけた。「もし後半の4回転ができても、それは前(14ー15)シーズンにやっておかなければいけなかったこと。それでは進化を目指すとはいえない」と考え、SPで4回転を2本の構成にするという攻めの姿勢に転じた。

 NHK杯では、4回転サルコウと4回転トーループ+3回転トーループを前半で続ける構成に挑戦。ノーミスの滑りで歴代世界最高得点となる106.33点を獲得し、もやもやしていた気持ちを吹き飛ばしたのだ。

 その納得の滑りは、挑戦する意識が成し遂げたものだった。最初の4回転サルコウの着氷ではつんのめるような形になりながらも、なんとか踏ん張ったが、それは攻めの意識がもたらしたと言える。その勢いは翌日のフリーにもつながった。後半の4回転トーループ+3回転トーループを成功させるノーミスの演技で、史上初の合計300点突破となる歴代世界最高得点の322.40点で優勝を果たした。