2020.11.23

羽生結弦は敗北して自らのスケートを考え直し、さらに進化した

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

『羽生結弦は未来を創る〜絶対王者との対話』 
第Ⅳ部 芸術性へのこだわり(1) 

数々の快挙を達成し、男子フィギュアスケートを牽引する羽生結弦。常に挑戦を続ける桁外れの精神力と自らの理想を果敢に追い求める情熱を持つアスリートの進化の歩みを振り返る。世界の好敵手との歴史に残る戦いや王者が切り拓いていく未来を、長年密着取材を続けるベテランジャーナリストが探っていく。

ソチ五輪エキシビション で『ホワイト・レジェンド』を演じる羽生結弦 
羽生結弦の演技を初めて見た時に目を引かれたのは、他の選手たちと違う体の使い方だった。腕は関節の可動域を上手に利用してしならせるように動かし、指先まで意識を張り巡らせる。その動作は、伸びやかさを感じさせ、大きさも生み出した。

 上半身は風に吹かれる若木のように柔らかく、強靭さも感じさせながら曲に乗せて動く。バレエの力強さとは異なる、日本独特の舞踊のようなしなやかさがある。そして時には歌舞伎のように見得を切る瞬間さえ感じさせる彼の演技は、後の羽生が創り出す世界の片鱗を見せるものだった。

 ソチ五輪シーズンに入る前の2013年8月の公開練習で羽生は自分の演技の特性をこう語っていた。

「僕の場合、(今の時点で)パトリック・チャン選手(カナダ)や髙橋大輔選手にプログラム・コンポーネンツ(・スコア=演技構成点)で勝てるとは思っていないので......。だから点数はきちんと計算して、いいジャンプを跳んでいくしかない。もっともっと表現力を磨いていこうとは思っているけれど、ジャンプをしっかり決めることこそが僕のスケートじゃないかな、と」