2020.08.10

羽生結弦の新たな歩みは、悔しさ残るソチでの金メダルから始まった

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by JMPA/Noto Sunao

『羽生結弦は未来を創る〜絶対王者との対話』
第I部 五輪での戦い2

数々の快挙を達成し、男子フィギュア界を牽引する羽生結弦。その裏側には、常に挑戦を続ける桁外れの精神力と自らの理想を果敢に追い求める情熱がある。世界の好敵手との歴史に残る戦いやその進化の歩みを振り返り、王者が切り拓いていく未来を、長年密着取材を続けるベテランジャーナリストが探っていく。

2014年ソチ五輪フィギュア男子フリーで演技する羽生結弦 羽生は2014年ソチ五輪の優勝後の記者会見で、各国の報道陣から東日本大震災に関する質問を何度も受けた。彼はこう答えた。

「僕が今、震災について口を開くことは、ものすごく難しいことです。確かな事実として言えるのは、僕は震災後にスケートができなかったし、普通の生活すらもギリギリの状態で、スケートを辞めようと本当に思いました。でも、たくさんの方々に支えられてきたからこそ、今、ここに立てているのだと思います」

 羽生は当時、スケートで結果を出しても、「復興の手助けになっているわけではない」と考え、「何もできていない」との無力感を抱いた。仙台からカナダに拠点を移したことも、それが本当に正しかったのかと悩んだ時期もあったという。

「今回の五輪の結果は、カナダでの2年間の集大成かもしれないけれど、十数年を仙台で過ごしてきたからこその結果でもあります」