課題をクリアした羽生結弦。今シーズン本当の戦いがここから始まる (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 だが羽生は、そこでパンクしたのがよかったと言う。

「今日の6分間練習は、アクセルやルッツもやらず、4回転ループだけに集中しようと思っていたんです。最後はパンクしているけど、こういう間違いが出るなと、1回確認できたのがよかったのかなと思っています」

 さらに、練習中に場内アナウンスで、自分の紹介がされている時に跳んだのは意図的だったとも言う。

「本当はトーループをやろうかと思っていたんです。でも、たぶん力を使うだろうし、ループをやろうかなと一瞬迷って......。僕は選手紹介をされている時に跳ぶのがいちばん確率がいいし、その時は一発跳ぼうと思って緊張感も加えられるから、本番に似た感覚で行けるのでいいかなと思ってやりました。

 最初の4回転ループは練習でも百発百中ではなくて、曲かけでも一発目に降りられるわけではないんです。だからパンクをした時に『もう一回できる』と思って、何かすっきりしたんです。それからある程度いい感覚でずっと跳べていたから、ある意味、肩の力が抜けたというか。公式練習の曲かけを含めて、本番の前に緊張感のある本番の気持ちで2回やれたという意味でもよかったのかなと思います」

 そう話す羽生の4回転ループは、少しだけ着氷後の抜けの悪さはあったがGOE加点1.65をもらう出来にし、次の4回転サルコウも3.19点の加点をもらった。それで勢いがつき、ステップシークエンスはメリハリの利いた彼らしいキレのある滑りにした。

 結局、4回転トーループが2回転になったあとのリカバリーの影響で、トリプルアクセルが1本なくなり、4回転トーループからの連続ジャンプの3回転トーループは回転不足の判定。さらにコンビネーションジャンプも2本だけになったことで、得点は195.71点にとどまった。それでも、合計は300点超えの305.05点と、ほぼ納得できる結果となった。

「本当は315~320点近くいけばいいかなと思っていたけど、ジャンプが1個抜けたし、回転不足もひとつあったからしょうがない。でも気持ちとしては、別にショートがよかったからというのはとくになくて、むしろショートはダメだったなと思ってけっこう引きずっていた。今度こそやってやるという気持ちもありつつ、今日のこの試合が最後じゃないぞという気持ちもすごくあった。

 グランプリ(GP)ファイナルへ向けて、このNHK杯では最初の4回転ループを降りる、そのあとの4回転サルコウも決めるというのがいちばん大事だと思っていたんです。その課題をクリアできたことでやっと、『これでファイナルで戦えるな』という気持ちを持ててきたかなと思っています」

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