スケートカナダ圧勝の羽生結弦。ジャンプに込められていた今の心境 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

「自分がやってきている道が本当に正しいのか正しくないのかというところで、少し迷っていたんです。ジャンプを跳ぶ前にすごい静止状態から跳ぶことが、果たして正しいジャンプなのかどうなのか......。たとえばステップから跳んだジャンプだったり、ジャンプを終わったあとにステップをやったりとか、そういうものが正しくて、全部評価されているのか、とか。

 そういうことに関しては、今シーズンが始まってからすごく疑問を持っていたんです。そこをいちばん重視してスケートをやってきていたし、そこが自分の武器だとも思っていたので。今回、それをしっかり評価していただけたのは、この道でよかったなと自信になったし、これからまた4回転ルッツとか4回転アクセルをやっていくにあたっても、そういう道を進んだうえで、難しいことをやらなくてはいけないなという確信になりました」

 ジャンプのGOE評価では、跳ぶ前の滑りや、跳んだあとの難しい動作も評価の対象になっている。だが、それがどこまで評価されているかは、疑問を感じることも事実だった。ジャンプに入る前には余分な動きをしないで、ジッと構えてから跳んだジャンプでも、高い評価をされている場合もあるからだ。

 そんな中で羽生自身も、高難易度のジャンプに偏ってきている風潮を感じていた。さらに自分自身も、そうならなければいけないという感覚になって練習をしていたとも言う。4回転アクセルへの挑戦も、4回転ルッツへの挑戦もそうだった。だが今回、4回転はループとサルコウ、トーループの3種類の構成で320点台を出せたことで、そういう流れに少しでも「歯止めをかけられたのかもしれない」と言う。また、それはほかのスケーターたちの「健康状態にも影響することではないか」とも語った。

「4回転ルッツが本当に難しいのかと言われれば、やろうと思えばみんな跳べるかもしれないけど、そこはもうタイプによりけりですし......。でもやっぱり、それぞれのスケーターにそれぞれの個性があり、それが評価されるような採点システムになった。それなのにだんだん高難易度のジャンプに傾倒していって、演技構成点との比率がだんだん合わなくなってきているのが現状だと思っています。

 でもそこで、『ジャンプでも表現できるよ』ということを、今回は見せられたと思うんです。そこは非常によかったと思う。とくに後半の4回転トーループ+1オイラー+3回転フリップに関しても、しっかり音に合わせた状態で難しいことをやった。そういうことに関しても、難しくても、ジャンプでも表現できるのは自分の武器だと思う。それによって評価してもらえるんだよというのを、ちょっとでも出せたんじゃないかな、という感覚はあります」

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