羽生結弦が新エキシビション『天と地のレクイエム』に込めた思い

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi 能登直●撮影 photo by Noto Sunao

 7月4日のファンタジー・オン・アイス神戸。静かなピアノの音の中で滑り出した羽生結弦の姿から、一瞬たりとも目が離せなくなった。

 前週の金沢公演から演じ始めた新しいエキシビションプログラム、『天と地のレクイエム』。驚きと天への怒り、そして襲いかかって来る絶望感と無力感。心の中で暴れ回る狂おしいほどの気持ちが、体の隅々からしみ出てくるような滑りだった。

神戸、長岡で、今季のエキシビション『天と地のレクイエム』を披露した羽生結弦神戸、長岡で、今季のエキシビション『天と地のレクイエム』を披露した羽生結弦 自身が経験した東日本大震災への思いを表現するプログラムを作りたいと考えていた羽生にとって、松尾泰伸氏が作曲した『東日本大震災鎮魂歌「3・11」』との出会いは衝撃的だった。羽生は、一度聞いただけでこの曲で踊ることを決めた。そして滑り始めると、自分の体の中に何かが降りて来るような感覚になったという。

 プログラム制作中だった6月上旬、羽生はこう話していた。

「僕はこれまで、いろいろなプログラムをやってきましたけど、何かのメッセージを届けるというのはあまり得意じゃないと思うんです。ときどき、いろんな先生方に『自分の中に入り込みすぎる、もっと外へ意識を向けるように』と注意されたこともありました。でも、この新しいエキシビションプログラムに関しては、僕の経験やその時の感情をそのまま込める演技にしようと思っています。完全に自分の中に入り込んで、その世界に自分の体や気持ちなど、すべてを溶け込ませるまで滑り込みたいと思っています」

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