井上尚弥が実践したフルトンKOの作戦に、いとこ・浩樹は「先に言っといてくれよ!」 (4ページ目)

  • 篠崎貴浩●取材・文 text by Shinozaki Takahiro
  • 北川直樹●撮影 photo by Kitagawa Naoki

【階級を上げるごとにリミッターが解除されていく】

――フルトン選手のジャブが危険という前評判もありましたが、実際はジャブの差し合いでも井上選手が圧倒しました。

「それは踏み込むスピードの差だと思います。下半身の力、バネ、瞬発力が全然違いましたね」

――その踏み込みを邪魔するためか、フルトン選手が尚弥選手のつま先を踏むシーンがありましたね。

「フルトンからすれば、自身の前足を尚弥の前足のすぐ前に置くか、反則ですけど、つま先を踏めば踏み込みづらくなると思ったのでしょう。フルトンのほうがリーチが長い(尚弥が171cm、フルトンが179cm)ので、踏み込みがなければフルトンのパンチのほうが届くことになります。それを想定して練習していたのかもしれないですけど、通用しなかったですね」

――序盤のフルトン選手は、パンチがまったく届いていませんでした。

「尚弥のバックステップと踏み込みが速いこと、フルトンが尚弥のリターンやパワーパンチを警戒してパンチが伸びなかったことなど、いくつか要因があると思います。フルトンのスタンスが広くて体が沈み、4cmの身長差(尚弥:165cm、フルトン選手:169cm)が感じられなかったことも、フルトンのアドバンテージを少なくする結果になったと思います」

――尚弥選手はあっという間に距離感をつかみ、紙一重でパンチをかわします。そんな「距離を支配する力」についてどう思いますか?

「その能力はずば抜けていますね。試合中に距離感をつかむまでが早い。『万が一、パンチをもらっても大丈夫』という余裕もあるんだと思います。だからギリギリで避けることができて、瞬間的に攻撃に転じることができるんでしょう」

――バンタム級からスーパーバンタム級へと階級が上がったことにより、リミットが1.8キロ増えました。減量や体調管理の様子はいかがでしたか?

「減量の最終段階でも元気でしたよ。『たかが1.8キロ、されど1.8キロ』『やっぱり、これまでよりも元気』みたいな話を尚弥としていました」

――パフォーマンスについてはいかがでしょうか?

「1.8キロ分の筋力が残ったので、瞬発力、スピードも上がっていたように感じました。階級を上げるごとにリミッターが解除されていく感じ。つくづく恐ろしいです(笑)」

(後編:井上尚弥がフルトン戦の直前に「スパーやってくれない?」いとこ・浩樹が感じた恐怖>>)

【プロフィール】
■井上浩樹(いのうえ・こうき)

1992年5月11日生まれ、神奈川県座間市出身。身長178cm。いとこの井上尚弥・拓真と共に、2人の父である真吾さんの指導で小3からボクシングを始める。アマチュア戦績は130戦112勝(60KO)18敗で通算5冠。2015年12月に大橋ジムでプロデビュー。2019年4月に日本スーパーライト級王座、同年12月にWBOアジアパシフィック同級王座を獲得。2020年7月に日本同級タイトル戦で7回負傷TKO負けを喫し、引退を表明したが2022年2月に復帰を表明した。17戦16勝(13KO)1敗。左ボクサーファイター。アニメやゲームが好きで、自他ともに認める「オタクボクサー」。

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◆Twitter:@koromaru511「井上浩樹 Koki Inoue ヰ乃上ころまる」>>

◆大橋ボクシングジム:詳細はこちら>>

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