「タイガーマスク、マスクを脱いだぁ!」素顔に戻った三沢光晴は、天龍退団後の全日本プロレスに新しい時代をもたらした (3ページ目)
【スターレスラーのイメージを変えた三沢】
劇的なフィニッシュの場面は、ドロップキック誤爆の直後に訪れた。鶴田のブレーンバスターを切り返した三沢がバックドロップを放つ。それを鶴田が切り返してカバーするも、カウント2で三沢が再び切り返し、片エビ固めで鶴田を固める。そして、和田京平レフェリーが3回マットを叩いた。放送席で若林は「三沢が勝ったぁ! 三沢が勝ったぁ!」と連呼した。
「三沢さんが勝つことをほぼ想定していなかったわけですから、その瞬間に何を言おうかなんて用意してなかったわけです。だから『三沢が勝った』という非常にシンプルな表現しか出ませんでした。
あの実況がよかったのかは視聴者の方の印象になりますが、私としてはシンプルな言葉だったからこそ、あの鶴田さんを破った偉業をストレートに表現できたんじゃないかと思っています。解説を務めてくださった『週刊ゴング』の竹内宏介さんが、『三沢が泣いてますよ!』と興奮して教えてくれたことも思い出しますね」
若林は三沢の勝利に感動すると同時に「全日本が生き残った」と感じたという。決着後の実況でも、その思いを次のように表現した。
「その激しさ、全日本プロレスに新しい時代到来! 新しい時代到来! ニューヒーロー誕生!」
三沢光晴という新しいスターが、団体の危機を救う。その直感は現実のものになっていく。この勝利をステップにエースへと駆け上がり、1990年代に川田利明、小橋健太、田上明と共に「四天王」と呼ばれた4人で、激しい試合を繰り広げていく。全日本プロレスだけにとどまらず、プロレス界全体を巻き込んで黄金時代をもたらした。
三沢が若きエースとして活躍するようになったある試合で、若林はかつて三沢の母に聞いた秘話を実況で伝えた。
「その時に紹介したのは、三沢さんが小学校の時に作文で『大きくなったらお母さんにダイヤモンドを買ってあげたい』と書いた、というエピソードですね。ただ、この話は『出し方が非常に難しい』と思っていました」
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