ケンコバがヒロ斎藤と渕正信の「流血の因縁」から学んだこと。「男には、ベルトより大事なものがある」 (3ページ目)

  • 松岡健治●文 text by Matsuoka Kenji
  • 山内猛●撮影 photo by Yamauchi Takeshi

 そこで普通なら会場が盛り上がるはずなのに、お客さんは反応しなかった。中学生だった俺は、『もしかしたらお客さんは、渕がヒロに耳を切られたことを知らん、もしくは忘れてるんちゃうか?』と思ったんです。それが、いい勉強になったというか......"やった側"や"見ていた側"は忘れてるけど、"やられた側"は覚えているという。『やられた本人しかわからない悔しさがある』と教えてくれた一戦だったんです」

――そんなことを学んだ試合だったんですね。

「しかも、試合の結末もよかった。渕さんがバックドロップにいこうとした時に斎藤さんお得意の金的蹴りが入って、なぜかレフェリーも吹っ飛んで試合を制御できない状態に。当時の全日本でよくあった"不透明決着"で斎藤さんの反則負けかなと思ったら、そのあとに今度は渕さんがレフェリーを突き飛ばして、イスで斎藤さんをボコボコに。この時、あらためて耳を指差すんですよ。『俺は忘れてねぇぞ』って。

 最後はレフェリー不在のリングでゴングが鳴らされたんですが、耳のアピールをやめなかった渕さんの姿を見て『男には、ベルトより大事なものがある』ということも教えらました。それは我々芸人にも通じますよ。M-1グランプリで苦しんでいる若手に、あの試合を見せてやりたい。『タイトルより大事なものがあるんやぞ』って。悩める一般の方にも、あの試合を見て同じ気持ちになってほしいですが......今、あの試合の映像を掘り起こすのは難しいですかね(笑)」

(後編:斎藤と渕の因縁に重ね合わせた、上京後の千原ジュニアに抱いた悔しさ>>)

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