レスリングで姉妹金メダルへ大きく前進。なぜ妹の川井友香子は変わったのか (2ページ目)

  • 松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu
  • photo by JMPA

 友香子が変わったのは、リオ五輪前の2016年春、左肩を手術してからだった。姉のレスリングに打ち込む姿を見て自分が情けなく、恥ずかしくなった。練習パートナーとして同行したリオ五輪。優勝する姉の姿を見て、闘争心に火がついた。

 「五輪金メダルの梨紗子の妹」とずっと、言われてきた。その姉から叱咤激励され、友香子はひたむきに努力するようになった。新型コロナで実施が延長された1年。実は、妹は『肉体改造』に取り組んだ。

 それまで筋力、パワーが足りないと感じていたからだった。食生活を考え、筋力トレーニングの量を増やした。身体がひと回り、大きくなった。友香子が明かす。「この1年で通常時の体重が2、3キロ増えた」と。

 決勝戦の2時間半前の夜7時、友香子は女子57キロ級準決勝の姉の試合をスタンドから応援した。姉はポイント2-1で辛勝した。友香子の自信が膨らんだ。こう述懐する。

「ほんと僅差でもいいから勝てばいいんだ、どんなに苦しくても最後に勝てばそれでいいんだと思った」

 夜9時半に始まった決勝戦。翌日の自分の決勝戦に向けた調整もあるのに、梨紗子は試合から2時間半も会場に残って、スタンドに立っていた。途中、階段を下りて、スタンドの一番前に来て、大声をかけた。「友香子~。見てるよ~」と。

 その姉の声はマットの友香子に届いていた。妹は「(スタンドの)どこにいるのかすぐわかりました」と言った。

「もちろん、試合をするのは私なので、姉がいてもいなくてもレスリングは変わらない。でも、やっぱり、ふたりでここまで金メダルを目指してやってきたので、姉の姿を見ると、ここは絶対、勝ちたいという気持ちがより一層強くなったんです」

 姉を追いかけ、姉に追いついた。もう、だれにも「梨紗子の妹」とは言わせない。優勝が決まると、友香子は大きな日の丸の旗を持って、マットで泣きながら走った。マットを降りて、場内も回る。テレビ局の演出だろう、隅にあった大画面のモニターに両親が泣いて喜ぶ姿が映った。

 友香子は駆け寄り、何度も頭を下げた。その時の心境は?

「これまで大会では2位と3位ばかりで...。やっと金メダルを獲って家族に喜んでもらうことができた。恩返しができた。いままでサポートしてくれて、ほんとうにありがとうございました、という気持ちでした」

 世界一の姉を追い、友香子は世界一になった。繰り返すが、川井家の夢は『姉妹そろって金メダル』だ。つぎは姉の梨紗子が五輪連覇の偉業に臨む。

 妹の友香子は言葉に力をこめた。

「いい形で梨紗子につなげられた。しっかりとサポートし、梨紗子が金メダルを獲れるよう、頑張ろうと思います」

 なにやら、川井姉妹と両親のバンザイの絵が浮かんでくるではないか。

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