山口香が思う日本柔道が「魂を売った」過去。五輪と国民感情の乖離 (4ページ目)

  • 村上佳代●取材・文 text by Kayo Murakami  photo by AFP/AFLO

オリンピック開催は「見る人」「支える人」の納得感が必要

遠藤 最後に山口さんにぜひご意見をお聞きしたいのですが、東京オリンピックの開催について今さまざまな議論が起こっていますよね。実施の可否について、どうお考えですか?

山口 コロナ対策も同じだと思いますが、1年前(2020年4月頃)にあった選択肢と、今ある選択肢は変わりました。もっと言えば、今の段階では選択肢がない。どなたかが発言されていましたが、世界に対する責任という意味で、「もうやるしかない」という状況です。どのような状況でも突き進むという姿勢は、国民の気持ちと大きく乖離していると言わざるを得ません。

 私たちが忘れてはならないのは、スポーツというのはプレーする人のものだけではないということ。する、見る、支える。これらが1つのセットとなってスポーツであるということは、スポーツ基本法でも触れています。であるならば、選手だけに必要な対策をすればいいということではなく、見る人や支える人にもきちんと納得してもらう必要があります。現時点ではそれが極めて不十分です。オリンピックが国民に理解を得て開催され、成功するかどうかは、IOCやJOC、組織委員会がどんな言葉と行動で寄り添ったアプローチをしていくのかにかかっているのではないでしょうか。

【Profile】
山口香(やまぐち・かおり)
柔道家、筑波大学体育系教授。1964年東京都生まれ。小学校1年生から柔道をはじめる。13歳の時に出場した「第1回全日本選抜柔道女子体重別選手権大会」で最年少ながら優勝(50kg級)。以後、同大会で10連覇を果たす。1984年世界選手権優勝。1988年ソウルオリンピック(公開競技)では銅メダルを獲得した。1989年の現役引退と同年に、筑波大学体育学修士課程終了。現在は教授として教鞭をとる傍ら、日本オリンピック委員会(JOC)理事、コナミ取締役、日本学術会議会員など、多方面で活躍している。漫画『YAWARA!』(小学館)の主人公・猪熊柔のモデルとしても有名。

遠藤功(えんどう・いさお)
株式会社シナ・コーポレーション代表取締役。1956年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)取得後、三菱電機、複数の外資系戦略コンサルティング会社を経て、現職。2005年から2016年まで早稲田大学ビジネススクール教授を歴任。現在は、独立系コンサルタントとして、株式会社良品計画、SOMPOホールディングス株式会社、株式会社ネクステージ、株式会社ドリーム・アーツ、株式会社マザーハウスで社外取締役を務める。著書に『生きている会社、死んでいる会社』『新幹線お掃除の天使たち』『コロナ後に生き残る会社 食える仕事 稼げる働き方』など。

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