井上尚弥がパッキャオなみの「世界的スター」になるために必要なもの (3ページ目)

  • 杉浦大介●文 text by Sugiura Daisuke
  • photo by Reuters/AFLO

「ビッグファイトはひとりではできず、2人の選手が必要だ。つまりスターになるためにはライバルが必要ということ。パッキャオの場合、周辺の階級にマルコ・アントニオ・バレラ、エリック・モラレス、ファン・マヌエル・マルケスといった好敵手が存在した。井上の場合も、強敵との対戦で多くのファンの目にさらされるようになればスターになれるだろう。どのくらいの規模のスターかと問われたら、答えるのは難しいが」

 ギボンスの言葉どおり、パッキャオのキャリアの最大の幸運は、同世代にバレラ、モラレス、マルケスというメキシコの英雄たちが存在したことだった。この3人と熾烈なライバル関係を築き、勝利を手にした時点で、パッキャオはすでに殿堂入りに価するボクサーだった。

 その後、ウェルター級まで一気に階級を上げ、オスカー・デラホーヤ(アメリカ)、ミゲール・コット(プエルトリコ)、リッキー・ハットン(イギリス)といった各国のスターたちを蹴散らしたことで、パッキャオの評価は別次元まで飛翔する。これほどの"ブレイクスルー"が可能になったのは、やはり"メキシコ三銃士"とのライバル関係による基盤があればこそだった。

 当時のパッキャオと比較して、今の井上にはWBSSの決勝で対戦するドネア以外に好敵手が豊富にいるとは言えない。それでもドネアとの新旧スター対決を制し、そのあとに同級のWBO王者ゾラニ・テテ(南アフリカ)との統一戦を組めば、注目ファイトになるだろう。

 また、WBC王者ノルダン・ウバーリ(フランス)が、井上の実弟でもある暫定王者の井上拓真(大橋ジム)を退けた場合、"弟の復讐戦"は話題のイベントになる。さらに、日本リングから追放になった元WBC王者ルイス・ネリ(メキシコ)との因縁ファイトを海外で開催するという"奥の手"もある。

 これらのうちのいくつかを欧米のリングで実現させ、すべてで豪快なKO勝利を飾れば......。"ナオヤ・イノウエ"は現代最高のビッグネームのひとりとして全世界から認められるはずだ。パッキャオのように6階級以上の制覇は難しくとも、実力面でフィリピンの英雄と比較される機会はさらに増えるに違いない。今後のマッチメークは簡単ではないが、順調に強豪との試合さえ組めれば、スーパー・スターダムへの到達も不可能ではない位置まで、井上は上がってきているのである。

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