蘇った闘争本能。逆転Vの伊調馨の原点は、姉からもらった言葉 (2ページ目)

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 そして田南部コーチは、技の細かい動きを修正した。初日の試合が終わった後のアップ場、翌日の計量に備えて軽く身体を動かす選手たちの間で、伊調と田南部は白熱のスパーリングを続けていた。「ここが目標じゃない。もっと先へ、もっと上へ行くために」と言わんばかりに......。

 初戦敗退から29時間後、「チーム馨」は伊調馨を蘇らせた。

 女王対決・第2章も、序盤は前日と変わらぬ展開となる。伊調が先に消極的と見なされ、アクティビティタイムを課された。30秒間、伊調が無得点だと川井に1ポイントを献上することになる。

 そんな状況のなか、必死に攻める伊調の一瞬の隙をついて川井が片足を取った。だが、体幹の強さとバランスのよさに秀でた伊調は倒れず、一本足のまま場外へ。マットに倒されれば2点失うところだったが、最大のピンチを場外へ押し出されての1点に食い止めた。

 もし、あの場面で川井が2点を奪っていたら......。その後の流れは変わっていただろう。

 第2ピリオドに入り、またしても伊調が消極的と判定されて1失点。2分が過ぎたところで川井も消極的姿勢で1点を失うが、川井が2-1とリードしたままラスト10秒を迎える。

 その時、大橋監督いわく、「馨の闘争本能が蘇った」。

 伊調は低く踏み込み、川井を大きく崩すと、右足にタックル。全盛時のスピードで素早くバックに回って2点を獲得する。そして、川井を抑え込んだまま、マットの上で試合終了のブザーを聞いた。

 伊調はワンチャンスを逃さず、勝負をモノにした。チャンスは向こうから転がり込んできたのではない。勇気を持って前へ出て、手先のさばきではなく身体を張って当たり、川井の馬力に負けないように両腕を刺して掴んだものだった。

 全日本選手権13度目の優勝を決めた伊調は、「現状に満足しているようで好きではない」という、オリンピック以外では決して見せたことがない渾身のガッツポーズ。

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