2018.12.25

蘇った闘争本能。逆転Vの伊調馨の
原点は、姉からもらった言葉

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 12月20日~23日、天皇杯全日本レスリング選手権大会が東京・駒沢体育館で開催された。最終日の女子57キロ級――平成最後のマットに上がったのは、今年10月に2年2カ月ぶりに復帰したオリンピック4連覇の伊調馨(ALSOK)と、リオデジャネイロオリンピック63キロ級覇者の川井梨紗子(ジャパンビバレッジ)。大会史上初となる、オリンピック金メダリスト同士の激突となった。

川井梨紗子を下して全日本選手権13度目の優勝を果たした伊調馨 その前日、予選リーグ初戦でふたりは対戦し、川井が2-1で勝利。ただ、川井は圧力をかけ続けて伊調の動きを封じたものの、武器とするタックルは一度も決められず。卒業後も練習拠点にしている至学館大の谷岡郁子学長はスポーツ新聞の取材で「大きな自信になる」と語ったそうだが、果たして川井は伊調に対し、本当に自信を持つことができたのだろうか。

 一方、川井に勝つ要素なく敗れたものの、伊調サイドに悲壮感はまったくなかった。目標はあくまで、来年6月の明治杯全日本選抜選手権。今回敗れても選抜で川井にリベンジを果たし、プレーオフを制して2019年世界選手権出場権を獲得すれば、メダルを獲得して東京オリンピック日本代表の切符を掴めるという計画だ。

 田南部力コーチは「今の段階で現役世界チャンピオンにあそこまでできれば上出来」と評したが、伊調も確かな手応えを掴んだはずだ。「オリンピックへ向けての本当の復帰戦として、この全日本選手権がありました。ここからが勝負」と述べ、東京オリンピックでの5連覇への挑戦を初めて明言した。

 決戦を前に伊調と話し合ったALSOK大橋正教監督は、「チャンスを作ろう! まともにいってダメなら、ネコだましでもなんでもやってみろ」とアドバイス。「なぜ引いてしまって、前へ出られないのか。怖さもあるだろうが、自分との闘いだ。リオまでできたことができないはずはない」と言われた伊調は、いいときのイメージを取り戻そうと、ロンドンオリンピックや、2014年・2015年世界選手権のビデオを時間が許すかぎり見直した。

 また、八戸クラブの澤内和興会長は伊調にひと言、「やってきたことを、6分間出しきれ」と告げた。3歳から中学卒業まで指導を受け、30年以上も「お父さんみたい」と慕う恩師から幾度となく言われてきた言葉が、伊調の胸に突き刺さった。