パワハラ問題を乗り越え、伊調馨が復帰。
前人未踏の道へ腹をくくった

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 女子個人種目初のオリンピック4連覇を達成した伊調馨(ALSOK)が、公益財団法人日本レスリング協会・栄和人前強化本部長からのパワハラ問題を乗り越え、2年2カ月ぶりに実戦のマットに戻ってきた。

伊調馨がパワハラ問題を乗り越えてマットに帰ってきた伊調馨がパワハラ問題を乗り越えてマットに帰ってきた「今、レスリングがどんどん好きになってきています。やり残したこともいっぱい。アテネ大会からロンドン大会まで8年間、あっという間だったから、4年後のリオデジャネイロ大会も意外とすぐに来るんじゃないかな」

 2012年のロンドンオリンピック後はこう語り、あっさりと現役続行を宣言した。

 ところが、「集大成」と位置づけて挑んだ2016年のリオデジャネイロオリンピック後は違った。

 4つ目の金メダルを獲得したものの、「悔しさのほうが圧倒的に大きい。できるなら、全部やり直したい」と振り返る一方で、「今はまだ、選手に戻ること、次のオリンピックで5連覇することに意味・価値が見出せない」と長期休養の道を選んだ。

 それでも、東京オリンピックに出場するために伊調は、「復帰のリミットは2年前の全日本選手権」とも語っていた。その言葉どおり、今年4月からアスリートとしてトレーニングを再開。12月に行なわれる全日本選手権に照準を合わせて、朝はロードワーク、昼はウエイトトレーニング、そして夕方はマットに上がり、日々3部練習で自らを追い込んできた。

 今回、伊調が出場した全日本女子オープン選手権大会は、その前哨戦だ。

 全日本選手権への出場資格は、6月に行なわれた全日本選抜選手権をはじめ、国内大会で一定の成績を上げた選手に与えられる。伊調は長期休養していたが、過去の実績を鑑みると、日本レスリング協会強化委員会からの"推薦"で出場することができる。

 それにもかかわらず、伊調はそれを嫌った。全日本選手権の出場権を獲るとともに、この半年間の仕上がりを確認するため、今大会への出場を決意した。

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