長谷川穂積、引退から3ヵ月後の心境。「現役じゃないけど一生ボクサー」 (6ページ目)

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • 大村克巳●撮影 photo by Ohmura Katsumi

 そうして迎えた2016年9月16日。ウーゴ・ルイス(メキシコ)とのWBC世界スーパーバンタム級タイトルマッチ。あの夜の長谷川穂積の勇姿を、多くのファンは、少なくとも会場に足を運んだファンは、生涯忘れないだろう。

 9ラウンド、ルイスの左アッパーを食らい、長谷川はぐらつく。ロープに詰め寄られ、悲鳴が会場を包んだ。絶体絶命のピンチにもかかわらず、長谷川は打ち合うことを決める。その勇気に、観客は叫んだ。声のかぎり叫んだ。

「行け、長谷川!」

 絶叫と歓声にかき消される9ラウンド終了のゴング。10ラウンド開始のゴングが鳴るも、ルイスは首を横に振り、コーナーから立ち上がることを拒んだ。長谷川の勝利が決まった瞬間、この日、偶然となり合わせになった観客は抱き合い、多くの観客がうれしいはずなのに泣いた。自分以外の誰かの勝利に、あれほど心揺さぶられることは、人生でそう何度も起こることではないはずだ。

 引退を決めた理由を、「ベルトを獲る理由はあったが、守る理由が見つからなかった」と語る長谷川。しかし、もちろん心が揺れなかったわけではない。

「5年ぶりのチャンピオンですからね。周囲もチヤホヤしてくれるわけです(笑)。次の試合はウン千万と具体的に金額を提示されたりもしました。それならって、一瞬は思いましたよ」

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