長谷川穂積、引退から3ヵ月後の心境。「現役じゃないけど一生ボクサー」 (3ページ目)

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • 大村克巳●撮影 photo by Ohmura Katsumi

 現役時代、どの敗戦についても、何度聞いても、敗因を尋ねると、長谷川は決まってこう答えた。

「結果がすべて。俺のほうが弱かったから負けた。それだけです」

 言い訳も、泣き言も、一度も聞いたことがない。

 引退した今だからこそ、その裏側にあった想いを長谷川は語り始める。

「ブルゴス戦の勝利は、達成感、充実感という面でキャリア最高の瞬間でした。あれ以上の瞬間は、後にも先にもない」

 そしてそこに、ボクシングという競技の深淵をのぞく。

「ボクサーは試合までに体重を規定内に落とし、身体を作らなければいけない。でも、それだけじゃない。同時に、闘う心も作らなければいけない。イメージは、試合に向けて大きな荷物をゆっくりと持ち上げ、試合が終われば、それをゆっくり降ろすような感覚」

 亡き母のためにリングに上がったブルゴス戦――。そのとき、長谷川が抱え上げた荷物は、大きさも、重さも、過去最大だった。それを降ろすのにも、さらには新たな荷物を持ち上げるのにも、ブルゴス戦の勝利からゴンサレス戦までが4ヵ月というのは、あまりにも時間が短すぎた。さらにその間、東日本大震災も起こり、阪神淡路大震災の被災者でもある長谷川は、「今、闘う理由」を見いだせないまま、ゴンサレス戦のリングに立った。

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