「怒ってはいけない」。益子直美は「昭和の指導の連鎖」を断ち切りたい (3ページ目)

  • 村上佳代●文 text by Kayo Murakami
  • photo by Sunao Noto

怒らない指導を伝えるために、自分が変わらないといけない

―― 昭和の考え方を持ったまま引退したのち、今のような考え方に変わったきっかけはあったのですか?

「『益子直美カップ』が回を重ねていくなかで、監督さんから『怒る代わりにどういう指導をすればいいのか』と聞かれることが増えたんですね。でも、私も怒られる指導しか受けてこなかったので答えがわからなかったんです。『怒らないで』『指導方法を変えましょう』と言っている自分が何も変わっていないことに気がついて、1から勉強しようと思いました。

 でも、新しいことを勉強するのってプライドが邪魔をするんですよね。『なんで50歳を過ぎて、自分ができないことをさらけ出さなきゃいけないの』って。でも、今やらないと私は一生変われないと考えて、学ぼうと決意しました」

―― 具体的にはどんなことを?

「過去の自分自身の経験から『怒ったらだめ』ということは伝えていたのですが、なぜだめなのかを自信を持って説明できなかった。そこで、アンガーマネジメントのセミナーを受けました。怒りの感情が湧く理由や、怒りを抑えるための方法を具体的に教えてもらって、すごく面白かったんです。ほかにも、短い言葉でやる気を引き出すペップトーク、相手を褒める言葉のかけ方、モチベーションの高め方、本番で実力を発揮するための手法などを学ぶスポーツメンタルコーチングの認定資格も取得しました

―― そうした学びが「益子直美カップ」にも活かされているんですね。

「そうですね。日本はまだ遅れていると思いますが、海外ではメンタルコーチを取り入れているチームや選手がたくさんいます。私自身、アンガーマネジメントのセミナーで学んだことを、できれば現役時代に知りたかったなって(笑)。知識を得たことで、『益子直美カップ』でもなぜ怒ってはいけないのかを明確に説明できるようになりましたし、これからも発信していきたいですね」

(後編につづく)

【Profile】
益子直美(ますこ・なおみ)
1966年東京都生まれ。中学時代にバレーボールを始め、強豪・共栄学園に進学。1984年の春高バレーでは2年生エースとしてチームを準優勝に導いた。高校3年時にバレーボール女子日本代表に選出され、高校卒業後はイトーヨーカドーへ入社。チームを日本一に導く活躍を見せたが、1992年、25歳の若さで現役を引退。以降は、タレント・キャスターとしての活動と並行して、小学生バレーボール大会「益子直美カップ」を主宰するなど、「怒らない指導」の普及に尽力している。

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