2019.06.06

棄権しなかった錦織圭に感じた希望。
ナダルに完敗も気分上々で全英へ

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 規定の25秒ぎりぎりまでたっぷりと時間を取り、うめくような叫びとともに、サーブをコーナーへと叩き込む。

 返球が少しでも浅くなれば、豪腕から繰り出すスピンのかかったショットを高くはずませ、錦織圭を左右のみならず上下にも振り回した。

 通常は低い軌道で鋭く打ち込むバックのショットも、回転をかけて跳ね上げ、錦織のカウンターを封じる。

試合後の会見時、錦織圭の表情に陰りはなかった「僕は2日前にストレートで勝ち、圭はこの大会中、僕よりはるかに長時間、テニスをしてきた」の言葉が示すとおり、ラファエル・ナダル(スペイン)は自分に体力面でアドバンテージがあることを知っていた。

 その事実を踏まえてなお、赤土の王者に気の緩みは一切ない。錦織を走らせ、心地よい打点でボールを打たせず、オープンスペースを見つければ迷わず強打を叩き込む。

「圭は世界の7位。つまり、世界で7番目に危険な選手ということだ」

 そのような危機感と敬意を抱き、ナダルは、試合開始直後から錦織に襲いかかった。

 本来なら2日前に終わるはずの4回戦が2日間に及んだため、結果的に3連戦を強いられた錦織の足の重さは明らかだった。本人いわく、タンクに残ったエネルギー残量は、100を満タンとするなら「15か20」。その状態で、全仏で90勝2敗の戦績を誇るナダルに立ち向かうのがいかに絶望的な挑戦かは、本人が痛いほどにわかっていただろう。

「最初から、思いっきりいくしかない」と、短期決戦にかすかな勝機を見いだすが、その決意を見透かしたかのように、ナダルは錦織に攻めることを許してくれない。

「戦術的にも、彼のプレーに飲み込まれた」という錦織は、「最初の2セットは、ぶっちゃけ、コート上にいることがつらかった」と、のちに打ち明けた。

 それでも、第2セットの中盤あたりから、錦織が徐々に盛り返したのは明らかだった。好試合を期待するセンターコートの観客からは、判官贔屓の色を帯びる声援が錦織へと向けられる。