錦織圭は苛立ちの原因である「複雑な数式」を解けるのか (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

「圭はボールを捕らえるのも、試合の展開も、とても速い。だから、慣れるのに時間がかかった。第2セットに入るとようやくリズムを掴み、落ち着いてラリーができるようになってきた。それでも、彼はいいプレーを維持していたし、とくにブレークされた後のゲームではレベルを上げてきた」

 それが、マナリノが試合を通じて抱いていた印象だったという。錦織の鋭いリターンに終始、圧力を覚え、とくに第1セットではセカンドサーブをことごとく叩かれた、という悔いが深く心に焼きついた。

 実際には、セカンドサーブのポイント獲得率は44%とそこまで悪くはないので、数字以上にやられた思いが強かったのだろう。そこで、第2セット以降のマナリノは、「セカンドサーブをいつもより速く打っていた」という。その勇気は報われて、第2セットでのセカンドサーブ獲得率は78%にまで上昇した。

 だが、リスク覚悟の丁半的な勝負は、いつまでも勝てるわけではない。

 最終セットでの彼は、「おそらくセカンドサーブで無理をしすぎた」と省みる。リードした直後のゲームで、2度もブレークポイントで犯したダブルフォルト......。それは、「圭のリターンにずっと圧力を受けていた。あれは彼が引き出したものだ」と、敗者は定義した。

 一方の錦織は、ブレークされた直後のゲームでは、「相手になるべく打たせ、自分からミスしないことを心がけていた」という。

 攻撃的な姿勢が与えるプレッシャーもあれば、ミスをしないことで相手が覚える重圧もある。最終的に6-4、4-6、7-6という大接戦を制した勝因は、その局面を見極める洞察力と、見極めた戦況に応じて戦術を変えられる手札の豊富さにあった。

 かくして危機を切り抜けたその先で、錦織が対戦するのは、直近のドバイ選手権で敗れたばかりのフベルト・フルカチュ(ポーランド)。勢いに乗る22歳の強打は、この大会を勝ち上がるうえで欠かせぬ適応力を試す意味でも、錦織にとって格好の試金石になるだろう。

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